ヤクザもんに拉致られた中学生男子。その恐怖の体験を描く…
もとい。
合唱部の部長であったがために、ヤクザもんにカラオケ店で歌を教えることになった中学生男子。その奇妙な体験をコミカルに描く、和山やまさんの漫画「カラオケ行こ!」。
“和山やま”の名を一躍世に知らしめた「夢中さ、きみに。」に続く、KADOKAWAビームコミックス2冊目の和山やま作品。全1巻完結です。
なおコメディ作品を「こんなに面白いんだ!」と紹介するのはとても不毛なものなので(笑)、かったるいレビューなんぞ読んでられるか!という方はぜひストア等で試し読みをしてください。クソ面白いです。
「カラオケ行こ!」感想
概要
合唱部部長の岡聡実(おか・さとみ)は、合唱コンクールを見学していたヤクザ・成田狂児(なりた・きょうじ)に誘われ、なぜかカラオケ店に。
そこで狂児から「歌がうまなる(上手くなる)コツ教えてくれへん?」と、歌のコーチングを頼まれる。
大のカラオケ好きである組長(絶対音感持ち)が開く、年4回のカラオケ大会。そこで評価が低いと受ける「罰」を回避したい狂児。
教室に行くのは恥ずかしいので、歌の上手い聡実に目をつけた…という次第。
とりあえず一曲だけ聴いて欲しい、という頼みを断りきれず、狂児の熱唱(※曲は「紅」)を聞かされる聡実。
以降、部活が休みの日に拉致られて、カラオケ店のフリータイムで狂児をコーチすることに…。
…以上が主なあらすじ。「ヤクザと合唱部の中学生男子」という接点の無い二人が、歌の上達のためにカラオケ店で同じ時を過ごす、というシュールな関係が紡がれていきます。
なお「カラオケ行こ!」の初出は、2019年に発表された和山やまさんの同人作品(※クオリティ高し)。それに本作と連動した描き下ろしを加えて単行本化したのが、ビームコミックス版です。
狂児の強烈な存在感
ヤクザに歌を教える中学生男子…という構図から生まれる不条理さが「カラオケ行こ!」のおもしろみなのですが、まあそれは実際に読んで感じてください(おい)。
読み終わって印象に残るのは、本作全体を強烈に支配する「狂児の存在感」。この存在感こそが、「カラオケ行こ!」のおもしろさの源泉。
エリート会社員に見えなくもない、スマートな風貌と端正な顔立ちを持つ、アラフォーのヤクザ。常に薄ら笑いを浮かべながら、不健康な隈をたたえた眼で相手を見つめる優男。
しかし「絶対何人か○ってるやろ」と思わずにはいられない、独特の凄みが。
中学生である聡実には大変フレンドリーなのですが、ヤンチャ系な人にありがちな理不尽さも時折見せる狂児。
読んでいると、表には出さない彼の静かな迫力を意識せずにはいられないから、不思議。天性の人たらしとでも言うべき、ユニークなキャラクターです。
奇妙な関係の結末は…
不幸にも狂児と関わることになった聡実。さぞかしビビリまくってると思いきや…これが意外と普通(笑)。
いや、ビビってはいるんですが、根っこのところで大胆というか。狂児が歌っている最中に勝手にチャーハン頼んだりして、いやぁ、この子もちょっと変わってるねw。
教わっているという立場を崩さない狂児に対して、次第に大胆になっていく様子に、読んでるこっちがヒヤヒヤ。
そんな聡実、決して狂児に心を許したわけではないのですが、カラオケ店で同じ時を過ごすうちに、不思議と彼のことが気にかかるように。
合唱部員として変声期を迎えていることに悩みながらも、組のカラオケ大会のことも気になったり。
「歌」という共通の悩みを持ち、絶妙な距離感を形成していく聡実たちが描かれて、ある意味ほっこり。
しかし終盤では予想外の出来事が起こり、これが実に面白い展開。
本作も「夢中さ、君に。」同様、基本的には変わった人たちの特異な関係性から笑いが生まれる漫画。ゆえに同じような感覚で読んでいたのですが、「夢中さ~」には無いドラマティックな展開に度肝を抜かれました。
前半の小道具、そして「カラオケ行こ!」というちょっと間の抜けたタイトルも活かされていて、読み終えたあとに残る強烈なインパクト。めちゃくちゃ面白かったです。
ストーリー色の強い漫画でも独特の世界観を築き上げる和山やまさんの漫画力を、存分に堪能できました。本編に彩りを添える描き下ろし漫画も◎。
まとめ
以上、和山やまさんの漫画「カラオケ行こ!」の感想、いかがでしたでしょうか。
ギャグ漫画に対して「こんなに面白い漫画なんだよ!」とグダグダ綴ることほど、野暮ったいことはない!ということが良くおわかりいただけたかと思います。
兎にも角にも、全編に漂う独特の空気感は、ヤミツキになること請け合い。全1巻でサックリ読めて、不思議に満ち足りた読後感を持つ漫画。全力でオススメ。
ちなみに本作で好きなシーンは、狂児の車のダッシュボードで○○○を見つけた聡実がドン引きするところです。
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