連作形式の短編漫画集や、オムニバス形式の漫画単行本の中から、読んで面白かったおすすめ作品のまとめです。
記事中で紹介している連作短編集・オムニバスについては、
- 連作短編集…各話が同一世界観上で展開されている、または各話の登場人物に共通性がある。
- オムニバス…『SF』『ホラー』など、特定のテーマに沿ってまとめられている。
という解釈で取り扱っています。
連作・オムニバス形式の短編漫画リスト
音盤紀行
毛塚了一郎さんの『音盤紀行』。
様々な時と場所で、レコードが時に主役、時に小道具となり、人の縁をつないでいくドラマ描く短編集。2025年7月現在、1~3巻が刊行中。
祖父の遺品であるレコード、そのジャケットには謎の言葉が。買取査定を依頼した孫とレコード店員、女性二人がその真意をたどり…
というライトな冒険描く、第一話『追想レコード』が、特に印象的な一編。アナログ感のあるドラマが心に染みます。緻密に描かれた「レコードのある風景」にも注目。
営繕かるかや怪異譚
小野不由美さん原作の小説を、『青の祓魔師』の加藤和恵さんがコミカライズした『営繕かるかや怪異譚(えいぜんかるかやかいいたん)』全1巻。
古民家や旧家に息づく、得体の知れない「魔」。その存在に怯える人々を、営繕屋の青年が救っていく、ホラー・オムニバス。
特徴的なのは、主人公が「霊感を持たない」こと。そのため退魔ものではなく、落ち着いたドラマ感のあるホラー、といった作品。
382ページのビッグ・ボリュームで描かれる、加藤和恵さんの緻密な作画と、巧みな物語運びに、引き込まれます。
ebookjapanイーブックジャパン
アイリウム
1錠で一日分の記憶を「飛ばす」ことのできる薬・アイリウム。その薬を使った人々に起こる悲喜こもごもを描く、小出もと貴さんの『アイリウム』全1巻。
各話「アイリウム」という同じ小道具を使いながらも、ヒューマン・ドラマだったり、サスペンスだったり、はたまた感動話だったり、後味の悪い話だったり。描かれる内容が全く異なるという点がユニーク。
その中でも特にドキドキするのが、第5話『ホスト』。サイコなオーナーから逃げ出すために、記憶の飛ぶアイリウムを盛って盛られてのサスペンス。アイリウムの性質を上手く盛り込み、二転三転する展開が読ませます。
外天楼
石黒正数さんの『外天楼』全1巻完結。
エロ本ゲットに知恵を凝らす中学生たち。特撮ヒーロー番組で、突如起こった殺人事件の謎。人工生命体「フェアリー」を巡る騒動…
などなど、集合住宅「外天楼(げてんろう)」に集う人々の日常を、笑いあり、シリアスあり、バラエティ豊かに描くオムニバス。
しかし、一見無関係な各話が、徐々につながり、終盤ではサスペンス風味の漫画へと変貌していく、トリッキーな構成が面白い!
第一話を読んだ時には想像もできないラストの、何とも言えない読後感と言ったら…。
スキエンティア
戸田誠二さんの『スキエンティア』全1巻。
超高層タワーの頂きから、科学の女神・スキエンティアの彫像が見守る街。そこに住む人々の人生を、ほんのりSF風味を絡めて描き出すオムニバスです。
全身マヒの老女に3ヶ月、自分の体をレンタルする女性を描く『ボディレンタル』はじめ、人生に悩み、苦しみ、傷つきながらも、懸命に生きる人々。その生活にほんの少し、科学の力をプラスしたら…
そんなライトなSF風味のヒューマン・ドラマ。戸田誠二さんらしい、味わいと深みのある短編集です。
グッド・バイ・プロミネンス
ひの宙子さんの『グッド・バイ・プロミネンス』全1巻。
少しずつ絡み合った関係性を持つ、登場人物たち。その胸の内が時にシリアスに、時にコミカルに描き出されていく全8編。
少し変わった同級生を、優しく見守る委員長 → 同級生の母と叔父の、複雑な関係 → 若かりし叔父の、友情と愛情 → 委員長の先生が、義姉に抱く気持ち → 義姉の職場恋愛事情…
といった感じで、各話がゆるやかに繋がる読み応えが素晴らしい!最終話のあと、また頭からページをめくりだしたくなる、連作短編集です。
回游の森
自分の性的指向を知る、年下の従妹と再会した男。一心不乱に穴を掘る女に、真夜中に出会った少年。爬虫類にしか興味を抱けない、エリート会社員…。
彼・彼女らの心のなかにある昏い「森」が、不思議と読むものの心を捉えて離さない。それは誰しもが持つ「森」と、共鳴するが故なのか…。
か、どうかはわからないけれど(笑)、暗めの絵柄と相まって、読み進めるうちにずるずると深い森の奥に引きずり込まれるような。
そんな独特の暗さがたまらない!灰原薬さんの短編漫画集『回游の森』。
メランコリア
道満晴明さんの『メランコリア』。
巨大彗星メランコリアが、その直上に迫る地球上で展開される、SF・オカルト・不思議系など、バラエティ豊かな物語を描くショート・ストーリー上下巻。
道満晴明らしい、ポップでちょいエロなキャラクターが繰り広げる、シュールな笑い。
その裏では刻一刻と、地球滅亡のカウントダウンが進んでいる、という構図が、何とも言えないおかしみと薄ら寒さを演出。単話としても全体としても面白みのある漫画です。
うちらきっとズッ友 ―谷口菜津子短編集―
谷口菜津子さんの『うちらきっとズッ友 ―谷口菜津子短編集―』。
多感な小学生女子たち、幼なじみの男子、異性の友達、気の合わない女子大生たち…など、様々な人間関係を、「友情」をテーマに描く連作ストーリー。
人と人の間に横たわる繊細な心情を、ユーモアを交えながら、時に優しく、時に鋭く描き出す谷口菜津子さん。各話に込められた様々な「友情」が、心に刺さります。
図らずも家事から開放された主婦が、偶然出会った旧友たちとの旅行で「真実」を知り、成長していく『モノクロの修学旅行』が、後日譚(電書限定?)も含めて、味わい深い一話。
手紙物語
鳥野しのさんの『手紙物語』全1巻。
ファンタジー、ライト・ミステリー、SF、ヒューマンドラマなど、様々なジャンルの5編を収録。それら全てに、小道具として「手紙」が登場するオムニバス作品集。
「手紙」というアナログな存在が、人の心と心を結びつける役割を果たし、各ドラマの良いアクセントに。
美しい作画と、なめらかなストーリー、そして存在感のあるキャラクターたちも、短編とは思えない読み応えを演出しています。
とある目的を持って、10年に一度、宇宙に集まる人々を描くSF『星の林に月の舟』は、特に印象的。広大な宇宙と郷愁を感じさせてくれる一編です。
珈琲時間
女性チェリストと怪しいイタリア人の、愉快な掛け合いを描く連作。コーヒーの焙煎を介した叔母と姪の会話など。
全17話の物語全てに、コーヒーが小道具として登場するオムニバス。豊田徹也さんの『珈琲時間』。
シリアス風味なドラマ、笑えるコメディ、人生の不思議・悲哀をじわりと感じる話…。作者ならではの美麗で、センスあふれる作画によって、紡がれる物語たち。
そこにはいつも、苦味の効いたコーヒーがある。
にわにはににん
中野シズカさんの『にわにはににん』全1巻。「庭」をテーマに描かれるオムニバス。
「スクリーントーンを幾重にもかさねて漫画を紡ぎ出す」という、独特な描画方法を用いる作者。その端正な作業から生み出される、ファンタジックな世界がとても!ステキ。
不思議で幻想的なストーリーと、繰り返し眺めたくなる美しさを持つコマの数々は、他の漫画では味わえない魅力。漫画好きにぜひ読んで欲しい一作です。
名づけそむ
志村志保子さん『名づけそむ』全1巻。各話、「名前」に絡んだ人間模様が展開されるオムニバス。
ときにはハッピーエンドじゃないこともあるけれど、世の中にはきっと、こんな人生のワンシーンがあるのだろうな、と感じさせる大人の短編集です。
かつて家族を捨てた女性が、偶然に別れた娘と再会、「結婚式に出て欲しい」と、思いがけない誘いを受けるが…
という第一話が、とても秀逸。物語の中で「名前」にそういう役割を持たせるのか!と素直な驚きが。
HER
ヤマシタトモコさんの『HER』。
それぞれの日常生活を普通に送る、5人の女性(と1人の男性)。モノローグで語られるその内面と、終盤で噴出する本音。そして最後はちょっと笑えるオチをつけるw、というオムニバス。
人の内面を見ていく、ということに対する怖さ、居心地の悪さ。そしてあまりにも赤裸々にさらけ出されるナイーブさに感じる、不思議な恍惚感。
生々しい人間性がビンビン伝わってきます。
しかし赤裸々なままで終わると、何だか微妙になるところを、笑いでチャンチャン♪と締める形式が好き。
まとめ
以上、「連作短編集・オムニバス形式の漫画まとめ」でした。また面白い作品を読み次第、随時追記していく予定です。
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