ポップなタッチとゆるふわな世界観で、多くの漫画ファンを虜にしている衿沢世衣子さん。
短編集「ベランダは難攻不落のラ・フランス」では、様々な媒体で発表された魅力的な短編を収録しています。
収録作品
「ベランダは難攻不落のラ・フランス」の収録作品一覧です。()内は出版社・掲載誌など。
- GIRL’S SURVIVAL KIT
(GINZA「マガジンハウス」2017年9月号) - リトロリフレクター
(KADOKAWA/エンターブレイン「コミックビーム」2018年4月号) - 夕べの音楽
(光村図書「飛ぶ教室」第48号 2017年1月) - ラ・フランス
(秋田書店「もっと!」2014 AUTUMN) - 浜万年青
(ゴミ作り「ゴミ2」2016年1月) - 市場にて
(ゴミ作り「ゴミ3」2016年11月) - 難攻不落商店街
(講談社「パンドラ」Vol.1 SIDE-B 2008 SPRING、講談社「パンドラ」Vol.2 SIDE-B 2008 WINTER、講談社「パンドラ」Vol.4 2009 SUMMER) - ベランダ
(秋田書店「もっと!」Vol.7 2014年8月号)
このうち「夕べの音楽」は、「短日の音」を改題したもの。
また「難攻不落商店街」は「難攻不落商店街青年部」の改題で、
- i) 集結!我らが街に忍び寄る危機
- ii) シネマコンプレックス七変化
- iii) 鍛錬!ピンヒールマジック
の3編から成っています。
2008年から2018年にかけて発表の衿沢世衣子漫画をまとめた、「ベランダは難攻不落のラ・フランス」。その一風変わったタイトルは、収録のタイトルに由来していることがわかります。
また各短編は、様々な出版社・雑誌に渡って発表されたもの。中には「ゴミ」のように、ZINE(少数発行の自主制作出版物)に掲載された作品もあり、衿沢世衣子ファンなら感涙の内容となっています。よくぞ出版してくれた。
個人的注目作
短編集「ベランダは難攻不落のラ・フランス」、衿沢世衣子ファンとしてはどの漫画も満遍なく楽しめました。その中から、個人的に特に面白かった三編をご紹介。
リトロリフレクター
山上にある、謎の建物(実は天文台)。探検に来た男子小学生がそこを管理する少女に出会い、宇宙の一端に触れる様を描いた「リトロリフレクター」。
これぞボーイ・ミーツ・ガール!な一編。少年と少女の出会いと、宇宙への憧憬をかき立てるストーリーが、実にさわやかな読後感。
少年のささやかな成長も交えながら、読み終わるとちょっと空を見上げてみたくなるような、気持ちの良さを感じます。物語の「その後」も想像せずにはいられない。
ラ・フランス
祖母と同居する、小学生の妹と高校生の姉を描く「ラ・フランス」。
なぜか地下の防音室にこもりがちな姉。おしゃべりしたくて部屋に入ってしまった妹は、そこに姉の同級生男子がいるのを発見。
発表会用の音楽を内緒で作る二人に、興味津々の妹だが…?というお話。まだまだ子どもな妹と、ちょっと大人になりつつある姉。そんな姉妹のギャップが朗らかに描かれます。妹のころころ変わる表情、見飽きないなぁ。衿沢ヒロインらしい魅力にあふれています。
ベランダ
少し足が不自由な女性。その部屋にベランダから乱入したのは、隣に住む小学生の女の子。
ある取り引きをして以来、部屋に遊びに来るようになった彼女。しかしその背中には怪我をしたような痕が…?
女性と女の子の交流を描く「ベランダ」。大人から見た子供の世界と、子どもから見た大人の世界。重なっているようで微妙にズレている。そんな空気を描いた一話。衿沢世衣子作品には珍しく、キャラクターに笑顔が少ないのも印象的。
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総評
以上、「ベランダは難攻不落のラ・フランス」で個人的に気に入った3編でした。もちろん上記以外にも印象的な短編が多数。
少女と謎の女性の刹那的な邂逅を、フルカラーでファンタジックに描く「GIRL’S SURVIVAL KIT」。
夕方の子どもたちの世界を、少し怪しげな音楽にのせて描く「夕べの音楽」。
などなど。
ほか、これまでの衿沢タッチとは一風異なる「浜万年青(はまおもと)」は、驚くとともに、ちょっと笑ってしまったw。衿沢世衣子ファンとしては、とても満足の一冊。その世界観を存分に味わえる短編集でした。
様々な年代の、様々な媒体に発表された作品群。ゆるふわなタッチから、ちょっとシュールな物語まで。はたまた、ティーンエイジャー向きから、大人の雰囲気を感じさせるものまで。
衿沢世衣子漫画の「いろんな顔」が見えて、またマニアックな媒体からの収録もあったりで、「よくぞこの単行本をまとめあげてくれた」というしかありません。素晴らしい。
ただそういう性質を持つ本なので、衿沢世衣子漫画の初心者向き単行本ではありません。本作収録の漫画を味わうには、ある程度ほかの作品を読んでおいた方が、より楽しめると思います。
例えば「シンプルノットローファー」「ちづかマップ」「うちのクラスの女子がヤバい」など、既存の完結作品を先に読むと、よりその素晴らしさを感じ取れるのでは。ぜひ過去作をチェックしてみてください。どれもオススメです。
まとめ
以上、「ベランダは難攻不落のラ・フランス」のレビューでした。
何をおいても、いろんな出版社から発表された短編をまとめてくれた、ということには感謝しかありません。
ありがとう、イースト・プレス。
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