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異色の古書業界ミステリー小説『古本屋探偵の事件簿シリーズ』ネタバレ無しレビュー

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本の探偵 何でも探します

依頼者の求めに応じて、稀覯書・珍本を探す神田の古書店主。彼が出会う、古書にまつわる奇想天外な事件の数々とは―?

古本屋探偵登場 〈古本屋探偵の事件簿〉 (創元推理文庫)

紀田順一郎さんの小説『古本屋探偵の事件簿』。古書の世界で起こる風変わりな事件を描く、独特な世界観を持つミステリーです。単行本は東京創元社より全2巻が刊行。

以下『古本屋探偵の事件簿シリーズ』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレ無しでご紹介します。

『古本屋探偵の事件簿シリーズ』あらすじ

東京・神田の神保町にある古書街にて、古書店「書肆・蔵書一代」を営む店主・須藤康平。そのもう一つの顔は「本の探偵」。

新聞広告「本の探偵 何でも探します」を掲げる彼のもとには、古書マニアからの稀覯本(※きこうぼん。古書や限定版など、レアで価値のある書籍)探索依頼が舞い込む。

だが「稀覯本」はレアであるが故に、トラブルを巻き起こすことも。時に犯罪も絡む特殊な古書の世界で、須藤は古書店主としての矜持を持って事件に向き合っていく…

というのが、『古本屋探偵の事件簿』の主なストーリー。テナントビルの老大家・小高根閑一や、その孫娘で蔵書一代のアルバイト・俚奈とともに、須藤がユニークな事件を解決するミステリー小説です。

なお『古本屋探偵の事件簿』のオリジナルは、1991年に刊行された同名小説。現在は2023年に創元推理文庫より分冊・再刊行された、3中編収録『古本屋探偵登場』と1長編収録の『夜の蔵書家』を読むことができます。

『古本屋探偵の事件簿シリーズ』レビュー

短編集『古本屋探偵登場』

以下、『古本屋探偵の事件簿』シリーズの2冊をご紹介。まずは『古本屋探偵登場』。

古本屋探偵登場 〈古本屋探偵の事件簿〉 (創元推理文庫)
  • 収集家・津村が図書館に寄託した稀覯書「ワットオの薄暮」がすり替えられた!犯人探しを依頼された須藤が行き着いた、意外なトリックと犯行の目的とは?…『殺意の収集
  • 戦前の「シートン動物記」を探して欲しい、と女性からの依頼を受けた須藤。その背後に大口買取の気配を感じるが、同時にとある家族の古書にまつわる「闇」に巻き込まれていく。…『書鬼
  • マイナーな稀覯本の探書依頼を引き受けた須藤。しかしその本には「ある秘密」が隠されていた。そこには愛書家の複雑な心理と情念が絡んでいて…『無用の人

以上の3中編を収録した一冊。業界事情や人々の心情を反映した、「古書の世界」ならでは不可思議にして不可解な事件の数々は、他のミステリー小説では味わえないドキドキを感じさせてくれます。

長編『夜の蔵書家』

『古本屋探偵登場』でちょっと特殊な古書の世界の雰囲気に慣れたら、さらにどっぷりと独特のミステリーに浸れるのが、長編『夜の蔵書家』。

夜の蔵書家 〈古本屋探偵の事件簿〉 (創元推理文庫)

ライバルも出現する中、「元祖・本の探偵」を続ける須藤。戦後のアングラなわいせつ出版物収集に絡んで脅迫を受けている医者から、脅迫者の背後にいるであろう男を探して欲しい、との依頼を受ける。

古書を発端とした人探し、しかも対象は30年前に失踪しているという、難易度の高い仕事。しかも調査を進めるうちにニセ札事件も絡んできて、きな臭い展開に…という長編ミステリー。

戦後の印刷業界や地下出版の興味深い描写を交えながら、過去へ過去へと遡り、真実へと迫っていく須藤の「冒険」が、何ともミステリアス。昭和の独特な雰囲気に呑み込まれていきます。

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「古書への愛」が生み出すミステリー

そんな『古本屋探偵の事件簿』の面白味は、何と言っても「古書にまつわる業界事情」の描写と、それが生み出すドラマ

古書の買取・販売から買付や競りの様子、古書店主同士の繋がり、そこに絡む愛書家の複雑な心理など。一般ではうかがい知ることのできない業界事情や、古書愛好家の生態が非常に!面白い。

そしてもちろん本を読み、古書を求めるのは、「人」。古書を愛し楽しむ人々が、その愛情の深さ故に超えてしまう一線と、そこから生まれるサスペンスの数々。そこに「古書への愛と業」を強く感じます。

『書鬼』文中で主人公・須藤は、「本をたどることは、人をたどることになります」と語ります。その言葉通り、古書探索の過程で複雑な心理・人間模様が展開。その濃厚な人間ドラマが読後、心に深く残るでしょう。

レビューまとめ

以上、紀田順一郎さんの小説『古本屋探偵の事件簿シリーズ』のネタバレ無しレビューでした。

なんてことの無い、むしろ地味さを感じる「古書」「古本屋」などの言葉。しかしそこからは想像できない、奥深い世界を見せてくれる小説。この『古本屋探偵の事件簿』でしか味わえない、濃厚なミステリーを楽しめます。「一味異なるミステリー小説が読みたい!」という方にオススメ。

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