遺伝子操作により、超人的な能力を備えて生まれてきた少女。老軍人と施設を抜け出した彼女に、安息の日は訪れるのか?
弓月光さんの「瞬きのソーニャ」(またたきのソーニャ)。作者の過去作品とは一風、というか大きく趣きの異なる、本格アクション漫画です。2020年現在、単行本は3巻まで刊行。以下続刊です。
「瞬きのソーニャ」感想
あらすじ
ベルリンの壁が崩壊した1989年。ソ連の老軍人ザイツェフは、バイカル湖の北東に位置する軍の研究施設より、一人の少女を連れて逃亡する。
その少女・ソーニャは、非人道的な遺伝子操作により誕生した、超人的な身体能力を持つ人間。ザイツェフは国家の変革とともに彼女が処分される危険性を感じ、彼女を救出。雪山をかき分け一路、中国を目指す。
しかし秘密を隠蔽したい軍は、二人を追撃。狙撃手によりザイツェフは負傷してしまう。軍に囲まれる彼を見たソーニャは、その能力を開放。人間とは思えない動きを見せ―?
超人少女と老軍人の逃避行
第一話で研究施設を脱出、冬山を乗り越えて行くソーニャとザイツェフ。第二話では時が経ち、1998年の香港でザイツェフの墓参りをする、成長したソーニャの姿が。10年を経て、彼女がいかにしてその場所へ辿り着いたか?が以降、描かれていきます。
優秀な遺伝子を操作し、数多の失敗を経て生み出されたソーニャ。見た目は普通の人間ですが、常人の数十倍の反応速度と、それを支える筋力、そして高い知性を持つ超人。目にも止まらぬスピードで動き、敵の急所をつくという少女。
そのソーニャを研究所から救い出したザイツェフは、格闘技から処世術まで、彼女に生きる術を教え込み、そんな彼をソーニャは「お父さん」と慕うように。深い信頼関係を築いていきます。
しかし軍事的に価値のある彼女を、ソ連はもとより各国の諜報機関が見逃すはずもなく。国境を超え中国へと逃れた二人には、ソーニャを捕獲、または処分しようとする追手の手が常にまとわりつくことに。果たしてソーニャの運命は?
ベテラン作家の手腕が光る物語運び
…というのが「瞬きのソーニャ」の基本線ですが、おわかりの通りストーリーに特に目新しさはありません。むしろベタい。
が、これを「ベタ」に留まらせないのが、ベテラン漫画家・弓月光の腕。「何を描いて、何を描かない(省く)のか」という巧みな取捨選択がテンポの良さを生み出し、次なる展開が気になる作り。読み始めると、物語にグイグイ惹きつけられていきます。
また作者ならではのタッチで描かれるアクションシーンが、実に新鮮。ちょっと懐かしい少女漫画風の動きは、他の漫画では味わえない独特な風味。読めば読むほどクセになります(※弓月光さんは少女漫画出身)。
そして敵の体を容赦なく破壊していくソーニャの戦いには、絵柄からは想像できないバイオレンス感が溢れて圧巻。「みんなあげちゃう♡」「甘い生活」といった代表作からは想像できない陰惨さも、逆に本作の不思議な魅力となっています。
完結まではいかほどか
3巻では成長し、ついに学校(ハイスクール?)に通うことになるソーニャ。新たな敵&仲間に出会い、物語はいよいよ盛り上がりを…
…なのですが、実は本作は2012年刊行の1巻、2014年刊行の2巻、そして7年ぶりに3巻が刊行されたという、なかなかロングスパンにして寡作な漫画。「甘い生活 2nd season」と同じくグランドジャンプ誌にて不定期に短期連載される、というのがその理由のよう。
内容的にはそんなに長くならないんじゃないかな…(全5巻ぐらい?)とは思うのですが、さて、次巻が出るのはいつになることやら。面白いのは間違いないので、気長に待つのは苦にならない、という方はぜひ手を出してみてください。
まとめ
以上、弓月光さんのアクション漫画「瞬きのソーニャ」感想でした。弓月光さんと言えばセクシーコメディの巨匠、というイメージがありましたが、本作を読んでその印象がガラッと変わりました。
ちなみに2020年現在で御年71歳だそうで、未だに第一線を走られているのはスゴイの一言。長いキャリアから生み出される作風は、懐かしくも新しい、という言葉がピッタリ。斬新な漫画体験ができる一作です。
「瞬きのソーニャ」は、マンガアプリ「ヤンジャン!」でも読めます。
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