「Thisコミュニケーション」―リセットで最強の部隊を作れ。新感覚SFサスペンス

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突如あらわれた謎の生物に蹂躙され、絶滅しかけている人類。希望となるのは極地の研究所で強化された少女たちと、その隊長となる軍人だった!…というSF漫画かと思ったら、ちょっと趣が違っていて。

六内円栄さんの初連載・初コミックスである「Thisコミュニケーション」1巻。ポストアポカリプス的な世界観を舞台に、極端に「合理的」な思想を持つ軍人と、超人的な能力を持つ少女たちの、文字通り命を賭けたコミュニケーションが描かれます。

「Thisコミュニケーション」レビュー

20世紀後半に突如世界に現れた巨大なナマコ状の生物「イペリット」は、地球を自らが住みよい世界に作り変えるために、人類の排除を開始。やがて21世紀になり生き残ったのは、極地に隠された施設で生き延びた僅かな人間だった。

生き残りの一人である軍人・デルウハは、食べ物を求めて長野県松本市の雪山に埋もれた施設へ。そこで彼は施設を運営する研究者たちと、イペリットを単独で倒せる能力を持つ少女たち「ハントレス」に出会う。

しかし彼女たちは互いにいがみ合う関係で、イペリットとの戦闘中に同士討ちをしてしまう始末。そこで食べ物の提供と引き換えに部隊長となったデルウハは、砲術の腕前を活かして戦闘をサポート。そして同士討ちにより綻んだ人間関係を矯正するために、手始めにハントレスの一人を斧で殺害する―。

Thisコミュニケーション 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)六内円栄:集英社

文明崩壊後の極地で、巨大生物と戦う少女たち+軍人を描く「Thisコミュニケーション」。劇中でイペリットと戦う6人の少女たち(いちこ・にこ・みち・よみ・いつか・むつ)は、

  • 薬漬けで改造された子どもたち(孤児?)
  • 功を急ぐためか協調性が無い
  • 強力な腕力を持つ(巨大なイペリットを近接戦闘で倒せる)
  • しかし耐久力は一般人並み
  • 一定の損傷で仮死状態になり、死ぬ一時間前の自分を再生する(記憶も戻る)

といった性質を持つ「世界最後の軍隊」(的な存在)。

一方のデルウハは砲兵士官として優秀なだけではなく、軍隊におけるコミュニケーション術に「極度に」長けた人物。かつて所属した部隊では秩序および己の保身のため、合理的な考えのもとに時に誰かを唆し、時に自らが手を降し、味方殺しも躊躇なく行う「悪魔」。

そのデルウハが、イペリットを倒す力を持ちながら統率されていないハントレスたちをまとめるために、彼女たちの「再生能力」を利用する…。例えば戦闘中に誤って同士を殺した人物の罪の意識を無くすために、その人物(及び事情を知る人間すべて)にデルウハ自身が手をかけ、「事態を無かったことにする」。

デルウハはそれがバレないように悪魔的・合理的思想により行動し、最強の部隊を作り上げていかんとする。しかし!ハントレスの中には彼に疑問を持つものも現れ…、さらに!それに気づいたデルウハは逆に彼女たちの記憶を消すために…といった、「歪なコミュニケーション」が描かれていきます。

というわけで世界観はSFなのですが、実は「SF設定下で行われるサスペンス」というのが、この「Thisコミュニケーション」の本質。描かれる「不死身の兵士たち」と「悪魔的な指揮官」の命を賭けた駆け引き・コミュニケーションが、新鮮・ユニークです。

特に読者的に全く共感のできない、デルウハのキャラクターが秀逸。最強の部隊のために、6人のハントレス一人ひとりの性質を掌握し、コミュニケーションを取り、死なないが故に状況をリセットすることで、自分の理想に近づけていく。そんな彼は悪魔的ではあるけれど、悪人なのか?と考えると難しいところなのが、なんとも言えないおもしろみとモヤモヤを感じさせます。

しかしこの「Thisコミュニケーション」、そのようなおもしろみを持つ反面、SF設定は少々粗い感じ。描かれる世界は、あくまでも「デルウハ VS ハントレス」という状況を演出するための舞台、という印象です(だからSF的には決して緻密ではなく、ツッコミどころも多い)。

また、少なくとも1巻の段階では、例えばイペリットを駆逐して世界を救う、といった物語全体の目的は無く(デルウハの目的は安定した食料の調達)、むしろコミュニケーション描写こそに主眼を置いているようなので、「作者が描きたいものは本格SFではなくサスペンスである」と考えて読むべきでしょう。

なので、本作にリアルなSF観を求めると、やや肩透かしを食うかもしれません。逆にデルウハとハントレスたちの過激なコミュニケーションに魅力を感じたならば、グッとハマれるはず。

特に1巻終盤で描かれる、少し空気の読めない末っ子・むつの特異な行動と、それに対応せんと知略の限りを尽くすデルウハの様子は、サスペンス感にあふれていて素晴らしい。作者が「それを描くための話だった」という程の最後の1コマは、インパクト大。続きが気になるところです。

まとめ

以上、六内円栄さんの「Thisコミュニケーション」のレビューでした。SF設定を重視するとやや厳しい面もありますが、しかしその内容にはキラリと光るものがある、新感覚のSFサスペンス。

作者さんは本作が初連載とのことで、構成などにもいろいろと試行錯誤されているようですが、特異な状況下における駆け引きのおもしろさと、デルウハをはじめとしたキャラクターの魅力で、ぶっち切るほど魅力的な物語を作り上げていって欲しいですね。

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