過剰な経済格差を是正せよ!
トップと末端社員の給与格差が大きい企業に向けられた、過激なテロ。事件を担当する刑事は捜査の過程で、かつて父親を殺した男を発見するー。
朱戸アオさんの漫画『ダーウィンクラブ』。世界的な経済問題をバックに描く、社会派の本格クライム・サスペンスです。
『ダーウィンクラブ』は講談社の漫画雑誌「モーニング」で連載後、2022年11月に講談社のWebメディア「コミックDAYS」へ移籍。単行本が4巻まで刊行されています。
『ダーウィンクラブ』感想・レビュー
あらすじ
日々経済格差が広がる世界で、『CEOと一般従業員の年収格差が1000倍以上』に当てはまる世界的企業100社に向けて、謎の脅迫が送りつけられる。
「3年以内に給与格差を200倍未満にしろ。さもなくば消滅させる」
それから3年。警告を受けながら無視を続けていた企業に対し、ついに過激なテロが実行される!
手始めに標的となったのは、フロリダの民間による有人宇宙飛行の発射場と、連動する東京のイベント会場。
居合わせた人々は、ライフルを持ったテロリストたちにより、為す術もなく蹂躙されていく。
中継でその凄惨な光景を見ていた刑事・大良(たいら)は、映像の中にかつて父親を殺した男がいることに気づくー。
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リアルな社会派クライム・サスペンス
「世界で裕福な1%の人間が持つ富の合計は、その他約70億人が持つ富の合計の2倍以上」
GAFAに代表される超巨大企業。その経営陣たちが手にする報酬は、一般庶民からは「高額」という言葉すら当てはまらないほど現実味のない、桁違いなもの。
一方、末端の従業員たちは充分な給与を得ているとは言えず、その差は開くばかり。
漫画『ダーウィンクラブ』は、そんな現実的な問題である「経済格差」が発端のテロ事件と、それを追う刑事の姿を描く、本格的な社会派クライム・サスペンスです。
作者の朱戸アオさんは『インハンド』『リウーを待ちながら』など、医療系のサスペンス・ミステリーに定評のある漫画家さん。
綿密な取材と緻密な構成力で、物語を作り上げていくその手腕は、本作でも健在。全編に「リアル」が漂います。
父を殺された刑事の「特殊能力」
その『ダーウィンクラブ』の主人公・石井大良(たいら)は、ちょっと間が抜けているけど後輩には慕われているる平刑事。
ひょうひょうとして朗らかな人柄ですが、幼少時に「自転車屋を営む父親を謎の二人組に殺された」という、凄惨な過去を持つ一面も。
そんな大良には、「一度見た顔と名前は忘れない」という特殊能力が。当時目撃した「犯人の顔」と「手首の奇妙なタトゥー」を手がかりに、独自に正体を追いはじめます。
が、末端のいち刑事である彼は、捜査本部の中心には入り込めない。そこを「特技」を活かして上手く立ち回っていくのですが、テロ組織の手は警察内部にも。事件を調査していた大良の後輩刑事に危険が…?
この「誰が味方で誰が敵かわからない」緊張感のあるサスペンス展開が、実にスリリング!しかし気になるのは、なぜ「ただの自転車屋であった父」が「のちに国際的なテロ事件に関わる男」に殺されたのか…?
謎多きテロ組織の真の目的は…?
一方、テロ現場で大良が目撃した人物・佐藤(仮名)。
物語冒頭で「ヒトの進化の停滞」を憂い、大企業に警告を発した彼は、大良の父を殺害したと思しき人間。そしてその背後には、「ダーウィン」に関わりのある組織の存在が見え隠れ。
「以前パタゴニアに行きましてね」「グアナコはご覧になりましたか?」
そんな「奇妙な合言葉」を交わす、佐藤ら組織のメンバーたち。大企業をターゲットにする割には、どこか優雅で裕福なイメージなのですが、反面、目的のためには殺人も躊躇なく行ったり。
そして共通して「手首にタトゥー」がある以外は、全容は全くもって不明な組織。そもそも「目的」も表面上は「経済格差への反発」なのですが、本当にそれが最終目標なのか…?
捉えどころのないギャップと不気味さを持つ組織。その内部にやがて迫っていく大良。その歩みが進むほどに底の見えない沼にはまっていくような感覚が、なんとも不穏で恐ろしい!
まとめ:リアリティあふれるサスペンス
以上、朱戸アオさんの漫画『ダーウィンクラブ』の感想・レビューでした。医療系のサスペンス・ミステリーで評価の高い作者ですが、本作は社会的な内容にサスペンス要素を全振り。
緻密かつリアリティあふれるその内容にグイグイと引き込まれていくとともに、「経済格差」という社会問題が、劇中でどのように消化されていくのか?が気になるところ。
さて不穏過ぎる空気の中で大良は真実にたどりつき、父の仇を討てるのか、それとも…?
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