倫理学は悩める学生たちを救うのか?
雨瀬シオリさんによる異色の学園漫画「ここは今から倫理です。」。2020年11月現在、コミックスは4巻まで刊行中。2021年1月のドラマ化も発表されました。
「ここは今から倫理です。」1巻のカバーで教科書を片手にクールに佇むのは、主人公である倫理学教師・高柳。
ちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出していますが、その中身は果たして…?
「ここは今から倫理です。」感想
倫理学教師と生徒の交流
漫画「ここは今から倫理です。」は基本、各1話完結形式の物語。高校の倫理学教師・高柳と、彼の授業を受ける生徒たちの交流が、各話で展開されます。
おそらく選択形式の授業の一つであろう、倫理学。受講する生徒たちは、その性格や趣向も様々。
性に奔放だったり、他人を見下していたり、いじめられっ子だったり。思春期特有の未熟さや苛立ちを、それぞれ抱えています。
そんな生徒たちが抱く想いや困難に、高柳が倫理学の教えや名言を混じえて向かい合う、というのが基本的なストーリー。
物語の中心となるのは高柳ですが、彼に教えを受け成長していく生徒たちの群像劇、という側面も持つ漫画です。
「倫理学」とは?
漫画の内容に触れる前に、そも「倫理学」とは?ということを簡単に。
倫理学(または道徳哲学)とは、「一般に行動の規範となる物事の道徳的な評価を理解しようとする哲学の研究領域の一つ」。
作中の高柳の言葉を借りると、「学ばなくてもほぼ困ることは無い」けれど、「知っておくといいかもしれない」のが倫理学。
- 宗教とは?
- よりよい生き方とは?
- 幸せとは?
- いのちとは?
など、取り扱われるテーマは人間の根幹に関わるもの。
実社会で活用できるシーンは少ない。しかし学び、考えると、人生の節々で役に立つことがあるかもしれない。そんな学問です。
(以上、参考「倫理学 – Wikipedia」)
ユニークな倫理学教師・高柳
倫理学の授業を受ける思春期の少年少女たち。その性格・性質は実に様々。
怠惰な毎日を過ごしていたり、高柳に反発、または憧れを抱いていたり、特殊な悩みを持っていたり。
彼・彼女らが「倫理学」に触れ、その視野を広げていくのですが、倫理学の言葉を伝える教師・高柳の人物像が、実にユニーク。
イケメンだが基本的に無表情。クールな物腰で語る言葉は論理的。どことなく近寄りがたいアンニュイな空気を発し、斜に構えたポーズが特徴的な愛煙家の若手教師。
周囲を見下すかのような無機質的な目で、一見「教育に情熱は持っていないタイプの先生」に見えます。
人間くさい素顔が魅力的
が、やる気が無さそうに見えて、実は行動力がスゴイ!生徒のトラブルを見逃さず、んむしろ積極的に関わっていく、見た目とは正反対の性質を持つ男。
恋愛の行き違いから男子生徒に襲われそうになる女生徒。生活態度に問題のある不良。人間関係が苦手で他の生徒とトラブルを起こす問題児。
そんな生徒たちの苦境に、予想外の行動力を発揮。今時の先生には珍しく、積極・果敢に介入していきます。
そして物事を最後に解決するのはクールな倫理学!
…の精神も根底にはありますが、実際に生徒たちの大きな力となるのは、高柳自身の内にある熱い心。
人の悩み・苦しみを感じて必死になり、時にかっこ悪い姿を見せることを厭わない。クールな顔の裏にある、「人間くささ」が魅力的なキャラクターです。
心に響く偉人の言葉
一方の生徒たち。友人・家族・異性との人間関係や進路、引いては人生という大きな括りまで、様々な悩みを持っています。
高柳はあくまでも「倫理学の先生」であり、彼らの担任というわけではないのですが、倫理学の授業を通して、時には校外において、その悩みやトラブルに向き合っていきます。
そして生徒たちとの対話の中で語られるのは、ベーコン・老子・ショーペンハウアー・ニーチェなど、過去の偉人たちの言葉。
普段はややもすると難しく感じるそれらの言葉も、物語を通して聞くと、高柳の声に耳を傾ける生徒と一体になったような気持ちで、ストン、と心のなかに入ってきます。この瞬間が、「ここは今から倫理です。」の醍醐味です。
一つの集大成を迎える4巻
そして4巻では、ひとつの集大成的な話が描かれます。
第17話「マン・イン・ザ・ミラー」では、一人の生徒がSNSグループを抜けたことに端を発するイジメ問題から、倫理学の授業で「ディベート」をすることに。
これまでの話に登場した生徒たちが総出演し、「個人主義」と「全体主義」に分かれて討論をするのですが、「ここは今から倫理です。」総決算、という感じで非常に面白い内容。
ここに至るまでに積み重ねられてきた、生徒一人ひとりのキャラクターが活かされていて、「授業の臨場感」たっぷり。自分もこの環の中に入れたら…!と感ぜずにはいられない。
さらに4巻中盤では、高柳の授業を1年間受けてきた生徒たちが卒業する、という大きな節目を迎えます。
そこでは高柳と物語の要所要所で関わってきた、ある生徒との決着が描かれるのですが、その顛末はぜひ本編でお楽しみを。
まとめ
以上、雨瀬シオリさんの漫画「ここは今から倫理です。」感想でした。
「倫理」という響きと、「先生」という肩書から、ちょっとお硬い内容を想像されるかもしれません。が、ページをめくるとそんな懸念は吹き飛んで、ぐいぐいとストーリーに惹き込まれていきます。
何より主人公の高柳は、人に物事を教える「先生」でありながら、自分自身も悩み、成長してく存在である、というところに大きな共感を覚えます。読むときっと、高柳先生のことが好きになるのではないでしょうか。
なお上記の通り、4巻中盤でこれまで描かれてきた生徒たちは卒業しますが、代替わりした新たな生徒たちと高柳先生の物語が紡がれていくことに。今後の展開も楽しみです。
そして最後は、高柳先生のキメゼリフで。
「ではまた 倫理の時間に会いましょう」
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