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将棋漫画『王狩』感想―盤上を駆ける少年少女たちの戦い

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2017年6月26日、プロ棋士・藤井聡太四段が前人未到の公式戦29連勝を成し遂げました。私も当日の様子を見ましたが、その落ち着きぶりはとても14歳には見えず。

しかし記者会見のうつ伏せがちな様子から、藤井四段がまだ「少年」であることも感じました。藤井四段は史上5人目の中学生プロ棋士とのことですが、そこに辿り着くまでには将棋の素人には及びもつかない過酷な戦いがあったのだろうと思われます。

そんなことを考え思い出したのは、プロ棋士を目指す少年少女たちの熾烈な戦いを描いた将棋漫画、「王狩」です。

作者は本ブログでも「ぴりふわつーん」をご紹介した青木幸子さん。2010年~2011年にかけて全3巻がイブニングKCより刊行されています。

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「王狩」レビュー

あらすじ

小学6年生の久世杏(くぜ・あん)は奨励会3級。卓越した記憶力「絶対記憶」を持つ彼女は、兄弟弟子の高辻図南(たかつじ・となん、14歳)、別門下の曰佐英司(おさ・えいじ、14歳)たちと切磋琢磨する毎日。

同年齢のライバルも現れる中、奨学金も出る奨励会の1日トーナメントが近づく。実力を認められた杏は、図南・曰佐らとともに、会長に「勝て」との厳命を受ける。果たして勝負の行方は―。

盤面は少年少女の戦場

プロ棋士を目指す少年少女を描いた漫画「王狩」。物語では「青春」などということはとは程遠い、殺気漂う勝負が展開されます。

その過酷な世界観をあらわすのが第一巻の冒頭、杏のモノローグ。

私の優しい祖父はこの競技を

夏休みの草原を手に入れるようなものだと言った

(中略)

さらに強い相手を追いかけ

目に映るさらなる高みへ

足を踏み出した瞬間

 

世界は泥沼に変わる

 

泥沼の名は「奨励会」

(中略)

「将棋」の大地で「王」を狩る

(青木幸子「王狩」1巻、P3~5より)

「奨励会」とはプロ棋士育成期間で、プロ(四段)になれるのは1年に4名のみ、年齢制限もある狭き門です。

その中で主人公・杏を初め、図南・曰佐らいずれも「天才」と評価を受ける彼らが、厳しい戦いを繰り広げます。

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厳しいプロ棋士への道のり

そんな奨励会の厳しさを如実にあらわすのが、対戦相手。早い者では10代でその道を決め、高校生の入門でも遅いと言われる世界。複雑な事情から二十歳で弟子入りした棋士や、プロ目前にして足踏みをし、齢を重ね焦る青年たちの姿が描かれます。

華やかな表舞台の裏側で、杏や図南よりも厳しい立場に置かれている彼ら。精神を切り刻むかのようなプロ棋士への道のり、そして道半ばにして将棋の世界を去る者が確実にいるという現実が、そこにあります。

過酷な少年少女たちの戦い

少年少女だから余裕があるわけでもありません。杏や図南、そしてライバルたちもそれぞれに負けられぬ事情があり、時には盤外戦術も辞さない過酷な勝負の世界。

草原を駆ける騎士のようなイメージで描かれる彼らの戦いには、時に悲壮感すら漂い、息詰まるその展開から目が離せません。

「王狩」はフィクションですが、こんな世界を藤井聡太四段やそのライバル達がのし上がってきたのかな。そんなことを想像すると、ニュースで見るよりもさらに、将棋の世界に奥行きを感じることができるでしょう。

余談ですが、作中に登場する有力棋士は、奨励会三段の15歳。藤井四段がプロデビューから14歳にして新記録を打ち立てたことを考えると、事実がフィクションを超えてしまった、という感じですね。

まとめ

というわけで「王狩」、迫力ある少年少女たちの戦いを描いた将棋マンガの秀作です。しかし細かい伏線などは回収されずに完結となっているので、残念ながら打ち切りで終わっているようです。

3巻で一応の決着は着いているのですが、将棋の盛り上がりとともにまたどこかで杏たちの戦いを見れたら、と密かに願っています。

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