夫の遺骨を地球にいる義母に届けるため、妻は息子とともに宇宙へ。しかし特殊な「力」を持つ彼女には、何やらゴタゴタがつきまとい―。
助骨凹介(あばらぼねへこすけ)さん描くSF漫画『宙に参る(そらにまいる)』(『空に参る』じゃなくて『宙に参る』)。一風変わった趣きを持つ作品ながら、「超」が付くほどの本格的SFです。
単行本はリイド社・トーチコミックスより1~4巻が刊行中(2024年5月現在)。以下、『宙に参る』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『宙に参る』あらすじ
宇宙船がセスナ機ほどの身近さになり、人間の体も脳以外ならば挿げ替えが効く時代。コロニーに住む元エンジニア・鵯(ひよどり)ソラは、夫・宇一を病気で亡くす。
その葬儀を終えたソラは遺骨を義母に届けるため、息子・宙二郎とともに地球へ出立。が、一部界隈では「魔女」として認識される彼女。その道程には様々な出来事が起こり―。
『宙に参る』のココが面白い!
葬儀シーンで開幕するSF
宇宙を前に遺影と遺骨を抱くキャラクター、という大胆な構図のカバー絵。
そして第1話『BONE IN SPACE』冒頭では、純・和風の葬儀風景をバックに、夫の遺影を前にソラと宙二郎が神妙な顔を見せる。
そんなSF漫画らしからぬスタートを切る『宙に参る』ですが、その葬儀風景こそが「SFそのもの」。
「地理的(距離的)な都合」により、頭部モニターに参列者の顔を写した「焼香ロボ」が焼香・合掌を代行するその様子。
アナログとデジタルが入り混じった描写に、シュールでユーモアにあふれたSF感があります。
ちなみに息子・宙二郎の姿は、モニター状の頭部にひょろ長い手足がついたもの。なぜに彼が「息子」なのか?というのは、おいおい。
ひとひねりあるSF要素が面白い
葬儀ののち、義母のもとへ遺骨を届ける旅に出る、ソラと宙二郎。スペースコロニーの宇宙港より超大型宇宙船(?)に乗り一路、地球にある夫の実家へ。
その45日間の道程の中で様々な出来事が起こり…というのが物語の基本線なのですが、各話、ひとひねりがあって面白い。
自律小惑星型将棋AI「棋星」と、なぜか対話することになるソラ。人工知能である棋星に人格はあるか?から始まり、将棋AIは果たして人類に反乱を起こす可能性があるか?まで踏み込んでいく第3話『永世中立棋星』。
セキュリティの厳しいリンジン回路(劇中でロボットの中枢を司る行動原理)を、「呪文」によってハックする「リンジンの魔女」。その存在を、宇宙的おでん屋チェーンの裏メニューを絡めたおでんの合計金額からほのめかす、という第4話『Dragon in ODEN』。
一見、本筋とは無関係なエピソード群なのですが、そのそれぞれにユニークなSF要素が詰め込まれ、その積み重ねによって大きなSF物語が構築されていく。「個」と「全体」から感じるSF感、『宙に参る』ならではの面白みに、思わずニヤリ。
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「魔女」の秘密とは?
そんなSFストーリーの主人公ソラは、類まれなるエンジニア能力と「呪文」を駆使する、(比喩的な意味での)「魔女」。
その不思議な人となりが、SF心あふれるエピソードの積み重ねと、随所に散りばめられた「仕掛け」によって徐々に解き明かされていくのが、『宙に参る』の大きな見どころ。
また彼女の強力な力を手に入れたい!と考える勢力との軋轢も発生。2巻ではその流れがさらに加速。迫る「刺客」をソラはどのようにかわしていくのか?も物語の面白みです。
各エピソードは派手さ控えめ・庶民感を感じるもの。例えれば「SF小咄」的な感覚。ですが、その裏側にあるこぼれんばかりのセンスあふれるSF感が素晴らしく!面白い。
そして『宙(そら)に参る』というタイトルには、いろいろな意味が含まれていそうなのですが、さて?
感想・レビューまとめ
以上、助骨凹介さんのSF漫画『宙に参る』感想・レビューでした。
壮大な宇宙と反比例するかのような局地的なエピソードの数々ですが、通して読むとSF・宇宙を感じるこの不思議。
繰り返し読むことで新たな発見もあり、奥の深いおもしろさを持つ作品。助骨凹介さんのポップな絵柄も、とても良い風味。SFはちょっと取っ付きにくいな…と思われる方にもオススメな、本格SF漫画です。
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