古い蔵の解体、宗教施設の建築、格安の地下テナント…。
人知を超えた「何か」をまとう曰く付き物件には、不思議な力を持つある設計士が関わっていた!
ホラー漫画家・鯛夢(たいむ)さんが、実在する工務店から聞いた物件・施工に関する恐怖話をコミカライズした、『ある設計士の忌録』シリーズ。
本格的でパンチのある実話系オカルト・ホラー漫画です。
『ある設計士の忌録』感想・レビュー
不動産に絡むオカルト案件
『ある設計士の忌録』のメインの登場人物は、東京で工務店を営む「私」と、設計士である「先生」の二人。
ちなみに表紙の人物が「先生」。悪そうな顔をしていますが、悪役ではありません(笑)。
作者である鯛夢さんが「私」から聞いた、土地・不動産+「先生」の絡むオカルト案件を綴っていく、という形式(「私」は狂言回し的な立場)。
単行本1巻には、以下の7編を収録。
- 箱
- あかずの間
- 宗教施設
- 盛り場のビル
- 三角だらけ
- 日本の刀
- 地下迷宮
『あかずの間』『宗教施設』などのタイトル通り、不動産絡みの「いかにも」な恐怖話が、各話でじっとり描かれます。
毎日お得!
「先生」のキャラクターが面白い
とある地方の、由緒ある蔵の取り壊しを請け負った「私」。
その蔵の二階には50センチ四方の、「開け口が見当たらない」真四角な箱が、祭壇にポツンと置かれている。
何やら気配のする得体のしれない箱。素振りのおかしい依頼主。異様に高い報酬…。
怪しいことだらけの不可思議な案件に、「私」は「先生」に助力を求めることに。
「あっち方面の仕事だな」と語る「先生」は、不思議な呪文を唱えて箱を開封。その中には…。
…という『ある設計士の忌録』1巻第一話『箱』。
このように、時に「私」が「先生」に助けを求め、時に「先生」と共に怪しげな物件の施工・解体で恐怖体験をする様が、綴られていきます。
なお「先生」は専門の霊能力者ではなく、あくまでも「設計士」…
なのですが、除霊や神様その他の封じ込めなどオカルト方面の不思議な力を持ち、それゆえ業界内で重宝されている存在(実在するらしい)。
普通では危険でこなせない案件でも特異な力で解決!もちろん報酬もそれなりにお高い!「先生」。
強面でぶっきらぼう、やや口が悪いおじさんだけど、なぜか憎めないキャラクターが面白い人物です。
リアル過ぎる実話系ホラー
そんな『ある設計士の忌録』、全体的に暗めで重たい空気感を持つホラー漫画ですが、グロ表現がほとんどなく、一読した限りではそんなに怖くはない。
えげつない表現でビックリさせるタイプの漫画でもなく、意外にサラッと読めます。
が、読み終わったあとになぜか、恐怖がジワジワと足元からせり上がってくる…!
それは多分描かれている内容が、「いかにもありそうなリアル感」にあふれているから。
よくある事故物件ばなしはもちろん、宗教系施設の建築にまつわる裏話や、古くなった神道系施設の改修に絡む神事など、「建築や施工の裏側では、ちょっとヤバ気な話があるのかも…」と思わせるエピソードが、怖面白い!
作者の鯛夢さんは既刊『魂消ばなし』のように、キツイ恐怖表現のあるホラー漫画も描ける作家さん。
ですが『ある設計士の忌録』ではそういった表現を多様せず、実生活に即した読者の経験やイマジネーションに訴えかける描き方。
それがかえって読者の好奇心・恐怖心を刺激。リアルな大人のホラーとして、読み応えのある恐怖漫画となっています。
続巻ではさらなる恐怖が…
そして『ある設計士の忌録』、ナンバリングされていないので全1巻完結かと思いきや、続巻『ある設計士の忌録 疫神』『ある設計士の忌録 鎮め物』が刊行。
その中で活躍を見せるのが、先生の弟子・西脇瑠子。1巻最終話から登場の彼女は、無意識に魔を払う力を持つ「超ホーリーパワー」の持ち主。
しかし本人にその自覚は無く、またオカルト事案を全く信じていない、という人物。そんな彼女が現場に関わると…?
先生の除霊とは異なる風味のホラー話を味あわせてくれます。
またヤクザが絡んだ土地、首を吊った人が見える中古物件ほか、神社の御神体をふざけて破壊した若者たちに降り掛かった災厄『疫神』など、オカルト案件もより恐ろしく。
リアリティあふれる恐怖が存分に楽しめる続巻となっています。
『ある設計士の忌録』まとめ
以上、鯛夢さんのオカルト・ホラー漫画『ある設計士の忌録』感想・レビューでした。
現実味のある恐怖話が心に残る作品。全然霊能者っぽくない(笑)「先生」のキャラクターも良い味わい。
グロ表現もほとんど無いので、苦手な方でも安心して楽しめる(?)オススメのホラー漫画です。
なお本作は朝日新聞出版HONKOWA誌での連載で、シリーズもまだまだ続くよう。
先述の通り続巻はナンバリングされていないので、作者・鯛夢さんの新刊をチェックしてみてください。
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