他人とのコミュニケーションが超・苦手。だけど料理に関する記憶力、そして食への気遣いは半端ない!
そんな女子大生・辺清美の成長を描くグルメコメディ「あたりのキッチン!」。2018年10月23日発売の4巻で完結となりました。
作者はドイツ在住の白乃雪さん。ドイツに住んでいる漫画家さんが、日本の定食屋を舞台にしたマンガを描く、というのも本作のユニークな特徴です。
「あたりのキッチン!」感想・レビュー
概要
「あたりのキッチン!」の主人公は、新・大学一年生の辺清美(あたりきよみ)。
入学を機に一人暮らしをはじめ、定食屋「阿吽(あうん)」のバイトに応募。だが18年間友達ゼロで、超絶コミュニケーション下手の清美。当然接客もうまくいかない。
しかし料理に対する愛情は誰にも負けない!という無自覚な長所を持つ清美。類まれなる料理分析能力を発揮し、店主・中江善次郎も一目おく存在に。
料理をコミュニケーションツールとして周囲の人々と関係を築き、やがてその世界を広げていく、というアットホームなグルメコメディです。
【お知らせ】
アフタヌーンで連載中の『あたりのキッチン!』1巻が4月21日に発売されますので、紹介マンガを描きました!ご予約・お取り寄せの際、店員さんに「この本が欲しい」と見せて伝えやすいよう、注文用画像も作ってみました(3枚目)。よければご利用下さい。よろしくお願いします! pic.twitter.com/SwluI5iUNA
— 白乃雪@最新4巻10/23発売 (@ShironoYuki_jp) 2017年4月17日
こちらは作者・白乃雪さんによる作品紹介マンガ。言葉ではなく料理で「会話」する、というのが作品のポイント。
おいしい料理をハフハフしてハッピーになる、というグルメ漫画的構図ではなく、料理をきっかけに主人公が成長していく様子が、笑いを混じえて描かれます。
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コミュニケーションツールとしての料理
グルメ漫画の多くは、終盤で料理を食べてみんなしあわせ!のような展開が定番。もちろん「あたりのキッチン!」でも、料理で人々がハッピーになるのは同じ。
しかし見どころは調理過程そのもの。悩み・問題を抱えている人々が「食べやすくなる工夫」を、料理に織り込んでいく描写が面白い。
例えば風邪気味なバイト先の定食屋店主・善次郎に対し、ブリを使ったまかない作りを申し出る清美(1巻・第4膳)。
風邪を引いても味がわかりやすいように、甘さと酸味のある南蛮漬けを選択。体を温めるためにショウガを加熱、魚に併せて野菜も温かく。一方、成長期の息子・清正には魚ではなく食べごたえのある鶏肉を…。
こんな感じで食べる人間のことを考え、調理方法を吟味・実践。そしてできあがった南蛮漬けを食べた二人は…「うまいっ」「おいしい」と感嘆の声。
そんな善次郎親子の様子を見て、「(料理を通して)言葉が通じた」と感じる清美。
各エピソードで描かれる、こんな「料理を使ったコミュニケーション」が、じわっと心に染み渡る。ささやかだけど静かな感動が、「あたりのキッチン!」の醍醐味です。
ちなみにこの前段階では、清美は「自分がまかないを作るとか差し出がましいかも…」と、コミュ症から来る妙な葛藤をしたり。その狼狽っぷりが彼女らしく、何とも笑いを誘います。
実用的なレシピが魅力的
笑いと人情に包まれた「あたりのキッチン!」。グルメ・料理ジャンルの漫画ということで、劇中に登場するレシピ・調理法も魅力的なもの。
舞台が街の定食屋ということで、登場するのは身近で庶民的な料理ばかり。それをワンランクアップさせるテクニックが、劇中や各話のレシピで紹介されています。
例えば2巻収録の8話に登場するナポリタン。
麺をフライパンに入れる前に具材を端に寄せ、ケチャップを3~4分焼いて余分な水分と酸味を飛ばす。さらに麺を投入してから追いケチャップを入れることで、重くなりすぎない程よい酸味に。
また4巻に登場する、受験を控えた学生たちに出すハンバーグ定食。
玉ねぎをあえて生で加え、つなぎを少なくしてやや硬めに。食後眠たくならないよう、「食べ応え」で満腹感を演出。同じく眠気を誘うご飯(白米)を食べすぎないように、ソースもあっさり目。
お腹が空いた受験生たちが食べやすく、満足するような工夫が随所にあります。
こんな感じで作中に登場する料理・レシピはどれも、「食べる人のことを気遣った」もの。自分で作りたくなるのはもちろん、食べる人の笑顔を見たくなるような料理の数々です。
清美の成長
そんな料理と笑いが満載の全4巻。コミュニケーション下手ゆえスムーズには出来ないけれど、徐々にその世界を広げていく清美の成長が、物語全体を通しての大きな見どころ。
勇気を出してバイトを始めた清美。ご主人の温かいフォローを得ながら、息子の清正、清美を慕う料亭の息子・樹、大学の同級生である医学部の鈴代さん、商店街の人らと、交流を重ねてゆきます。
彼女がゆっくりと、しかし着実に成長し、そして自分の進むべき道を見つけていくその姿。読んでいると、ついつい「頑張って!」と応援したくなる微笑ましさがあります。
また両親を幼い頃に亡くしている清美。幼少時に何やら、自分でも思い出せない街との関わりがあったようで…。彼女の生い立ちに関わるちょっとした「謎」も、物語のポイントです。
まとめ
以上、白乃雪さんの「あたりのキッチン!」全4巻の感想・レビューでした。
ドラマもご飯も充実、随所に散りばめられたコメディ感もバツグンで、ついつい笑ってしまうおもしろさです。
そして漫画で清美の成長を楽しんだあとは、きっとお腹がすいているはず!劇中に登場の料理を作って、食してみてはいかがでしょうか。心もお腹も満たされるでしょう。
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