500年の人工冬眠から目覚めた男は、文明の壊滅した未来でひとり故郷・日本を目指す―。
漫画『望郷太郎』1巻。講談社モーニング誌にて連載中、山田芳裕さんの新作です。
『望郷太郎』感想・レビュー
あらすじ
北半球を襲った、凍死者の数が億を超えるほどの大寒波。舞鶴グループの七代目にして舞鶴通商イラク支社長である舞鶴太郎は、バスラ市にて妻・息子とともにかねてより開発していた装置にて、人工冬眠に入る。
しかし太郎が目覚めたのは2525年。一ヶ月後に目覚める予定だったが、実に500年が経過。妻と息子は装置の中でミイラ化し、絶望した太郎は自死を考える。
その時、太郎の脳裏に浮かんだのは、日本に残していた娘・恵美。もはや生きてはいまいが、せめて彼女や親族のその後を知りたい。意地の一念で、太郎は人の姿の見えない世界へ歩みを進める。故郷・日本を目指して―。
文明崩壊後の世界を歩く旅
500年後に一人コールドスリープから目覚める、という驚くような出だしの『望郷太郎』。その序盤では、操船ができないため海のルートはあきらめ、生き残った人が鉄道を動かしているかも…と、まずはシベリア鉄道を目指す太郎の姿が描かれます。
最低限の荷物を持ち、荒廃した道をひたすら歩く太郎。しかし生水を飲んだために腹を降し、携帯食料もやがて尽きようとする。動物を見つけるも、それを狩る手段を持たない自分に絶望する。
いきなり文明の外に放り出された現代人が生き延びることが、いかに難しいか。多くの人は、食料を得ることさえできずに死んでいくのでは。自分も自信ないわ…。
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太郎を助けたのは…
やがて雪の中で倒れ、意識を失う太郎。日本に帰り着くことなく、遠い異国の地で土に還るのか…?
しかし果たして、人間は生き残っていた!馬に乗って通りがかった男性二人に救われた太郎。手厚い介抱を受け、やがて言葉の通じぬ「500年後の人類」と行動を共にするように。
ですがそこは21世紀の常識が通用しない世界。彼らには彼らのルールが存在し、それが原因で太郎と衝突するように。太郎をやや支配的に扱う彼らに、人間の尊厳をかけてぶつかっていく太郎。その結末は?
SF?ヒューマンドラマ?
ここまでが『望郷太郎』1巻のだいたい中盤までの流れ。荒廃した未来世界に放り込まれた21世紀の人間は、過酷な環境で生き延びられるのか、そして故郷へたどり着くことができるのか、といった物語が、山田芳裕さん独特の力強い線と骨太なストーリーで紡がれていきます。
面白い。なかなか面白いのだけれど、ちょっと懸念も。それは、『望郷太郎』は果たしてSFなのか?それともヒューマンドラマなのか?ということ。
物語のスタートはまごうかたなきSFなのですが、それ以降は基本的に人間の本質をじっくりと描き出すドラマが展開。なのでSF展開を期待すると、少し肩透かしかも。
さらに2巻以降でどの程度SF展開があるのかは不明。もしくは「500年後の世界」というのはあくまでも人間を描くための舞台装置であって、全く掘り下げられない可能性も考えられます。山田芳裕さんがかつて『度胸星』(未完)というSF的な漫画を描いていることも、ややこしいポイント。
なので、この『望郷太郎』という物語に読み手が何を期待するか?によって、その読後感が大きく変わりそう。1巻末の予告では「(前略)初期化された世界で、絶叫がとまらに!!」と書かれていますが、さて―?
『望郷太郎』まとめ
以上、山田芳裕さんの『望郷太郎』1巻の感想・レビューでした。個人的には面白かったのですが、上記の理由でちょっと心の置きどころがフワフワした感じ。もう少し話が進むと、物語の方向性も見えてくるのでしょうか。続刊を待つ。
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