「いちげき」―幕末に刀を手にした農民たちを描く、迫力の時代劇コミック

松本次郎さんの漫画「いちげき」。幕末、身体能力の高さゆえ刀を与えられ「武士」となった農民たちを描く、異色の時代劇です。

原作は永井義男さんの小説、「幕末一撃必殺隊」です。

新装電子版 幕末一撃必殺隊永井義男:リイド社

漫画「いちげき」は、リイド社の月刊誌「コミック乱」連載。2021年3月刊行の第7巻で完結となりました。

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この記事は読むのに4分もかかりません。

「いちげき」感想

あらすじ

幕末の江戸市中。薩摩藩の西郷隆盛は藩士による徒党「御用盗」(ごようとう)を使い、情勢不安を煽ることを画策。

市民たちは強盗や放火・辻斬りを繰り返す御用盗に、恐れおののく毎日。

幕臣・勝海舟は解決を求められるが、混乱をきっかけに幕府との戦を起こしたい、という薩摩藩の狙いを知っているため、御用盗と争いたくない。

そんな勝が御用盗対策のために元・新選組の島田に命じたのは、「農民による討伐部隊」の育成。正体不明・不正規の討伐隊を使うことで、争いが大事になることを防ぐのがその目的。

島田ら武士は、近隣の農村から特に体力の優れた農民たちを選りすぐり、急造で剣術を教え込んだ「一撃必殺隊」を結成。

小柄だが機転の利く丑五郎ら農民たちは、破格の報酬と将来「士分」を与えられることを約束され、武士との戦いに臨むが―。

三人の男たち

武士 VS 武士となった農民」という異色の戦いが描かれる漫画「いちげき」。その中心となるのは、三人の人物。

一人は主人公である農民・丑五郎(うしごろう)。

武士を憎むが、苦しい生活から抜け出すために「一撃必殺隊」に参加。小柄ながらも知恵と度胸を武器に、隊の中心となっていきます。

もう一人は隊を作り上げた元新選組の島田

冷静な思考と観察眼、そして達人級の剣術を持つ男。鋭い眼差しで丑五郎ら農民たちを見据え、場合によっては躊躇なく斬り捨てる容赦の無い侍。

しかし冷酷さと同時に、農民の声に耳を傾ける柔軟さも持ち合わせ、丑五郎に目をかける不思議な人物

そして丑五郎・島田たちと敵対する、薩摩藩の豪傑・伊牟田

一撃必殺隊の正体にせまる、怪物的な強さを持つ剣士。ですが丑五郎とは意外な接点が…

これら三人の男を中心に、時代が大きく動く混迷の幕末が描かれます。

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「刀」の絶大な力

「いちげき」が他の時代劇と大きく異なるのは、丑五郎たち農民が「刀」を持つ、ということ。

「苗字帯刀(みょうじたいとう)」という江戸時代の身分標識が示すとおり、農民には刀を持つ権利が無い。

それが侍によって公式に認められるということは、彼らに取って非常に大きな意味を持つものです。

幕末においていまだ武士の権力は絶大。身分差ははっきりしており、農民は彼らに逆らうことはおろか、気分次第で「手討ち」として斬り捨てられても文句は言えない立場。

しかし身体エリートとも言える農民たちは、島田ら武士の思惑から、思いがけず刀を手にすることに。

そしてその驚異的な身体能力と鍛錬により、短期間で剣術を身に着けた丑五郎たちは、御用盗の急襲に成功。以後、人斬りとしての自信を深めていきます。

その原動力となるのは、「」。

身分の異なる農民と武士。だが刀を持てばその力は変わらず、むしろ身体的優位により実力が逆転することもある。それに気づいた農民の中には、自らを完全に武士だと自覚(または錯覚)する者も。

本来は持てない力を持った時、彼らは果たしてどのように変化していくのか?「刀の魔力」によりその有り様を変えていく農民たちの姿が印象的です。

農民なのか?武士なのか?

しかし、もともと侍に良い感情を持っていない丑五郎。実力を付けていきながらも、どこか迷いのような部分を見せます。

それでも生きるために剣の腕は向上させねばならない。ある時、剣術の心得を島田に尋ねます。返ってきた答えは

人をたくさん斬ることだ

激烈な任務で己の手を血に染めながら、心の中に葛藤を抱く丑五郎。果たして自分は農民なのか?それとも武士なのか?

そして否応なく迫る、伊牟田らとの戦い。物語に決着が着く頃、丑五郎は「何者」になっているのか…?

人斬りとなった農民は農民に戻れるのか。はたまた武士として生きるのか。それとも…。

折しも、鉄砲の伝来・普及で「侍そのものの在り方」が変わっていこうとしている時期。刀に憧れる農民たちがいれば、刀を置こうとする侍たちもいる。

そんな時代の波に翻弄される丑五郎ら「一撃必殺隊」の、行き着く先は果たして…。

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時代劇初心者にもオススメ

以上、永井義男さん原作、松本次郎さん作画の漫画「いちげき」全7巻感想でした。

松本次郎さんは「女子攻兵」全7巻など、アクション描写にも定評のある漫画家さん。時代劇である「いちげき」でもその魅力を存分に発揮。思わず息を呑む激烈な戦いが展開されます。

そして終盤にいくに従い、より殺伐さを増す物語。6巻・7巻では丑五郎たちの運命を決定づける、迫真の剣劇が

ショッキングなシーンもあるので耐性の無い方は注意ですが、何より松本次郎さんの洗練された作画は、漫画としての美しさを感じます。

普段あまり時代劇を見ない・読まないという方にもオススメしたい、迫力の時代劇漫画です。

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