「いちげき」―刀を手にした幕末の農民たちを描く、迫力の時代劇

松本次郎さんの漫画「いちげき」。倒幕を画策する薩摩藩が暗躍する幕末を舞台に、身体能力の高さゆえ「武士」となった農民たちを描く、異色の時代劇です。

原作は永井義男さんの小説、「幕末一撃必殺隊」です。

漫画データ
新装電子版 幕末一撃必殺隊著者:永井義男出版社:リイド社発行日:2017-05-12

漫画「いちげき」はリイド社の月刊誌「コミック乱」連載。単行本は現在3巻まで刊行、以下続巻です。

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「いちげき」レビュー

御用盗VS一撃必殺隊

江戸市中の情勢不安を狙い、薩摩藩の西郷隆盛が画策した、藩士たちによる徒党「御用盗」(ごようとう)が跋扈する幕末。江戸市民たちは強盗や放火、辻斬りを繰り返す御用盗に恐れおののく毎日。

その解決を求められる幕臣・勝海舟。しかし混乱をきっかけに、幕府との戦を起こしたいという薩摩藩の狙いを知っている勝は、御用盗と争いを起こしたくない。

そんな勝が御用盗対策のために元・新選組の島田に命じたのは、「農民による討伐部隊」の育成。正体不明・不正規の討伐隊を使うことで、争いが大事になることを防ごうと画策する。


[松本次郎・永井義男 著 リイド社「いちげき」1巻より引用]

近隣の農村から特に体力の優れた農民たちを選りすぐり、急造で剣術を教え込んだ「一撃必殺隊」を結成。小柄だが機転の利く丑五郎ら農民は、破格の報酬と将来「士分」の身分を与えられることを約束され、武士との戦いに臨むが―、というのが「いちげき」の主なストーリーです。

三人の男たち

「いちげき」で中心となるのは、三人の人物。

一人は主人公である農民・丑五郎(うしごろう)。武士を憎みながらも、苦しい生活から抜け出すために「一撃必殺隊」に参加。小柄ながらも知恵と度胸を武器に、隊の中心となっていきます。

もう一人は隊を作り上げた侍・島田。冷静な観察眼と思考、そして達人級の剣術を持つ男。鋭い眼差しで農民たちを見据え、場合によっては躊躇なく斬り捨てる容赦の無さ。と同時に農民の声に耳を傾ける柔軟さも持ち合わせ、丑五郎に目をかける不思議な男。

そして丑五郎・島田たちと敵対する、薩摩藩の豪傑・伊牟田。一撃必殺隊の正体にせまる、怪物的な強さを持つ剣士ですが、丑五郎とは意外な接点が…。

これら三人の男がメインとなって、幕末の混乱が描かれます。

刀を持った農民の行く末は

時代劇「いちげき」がユニークなのは、丑五郎たち「農民」が、「武士」となって刀を持つところ。

幕末においてはいまだ武士の権力は絶大。農民との身分差ははっきりしており、農民は彼らに逆らうことはおろか、その気分次第では「手討ち」として斬り捨てられても文句は言えない立場


[松本次郎・永井義男 著 リイド社「いちげき」1巻より引用]

しかし丑五郎はじめ身体エリートとも言える農民たちは、島田たちの思惑から思いがけず刀を手にすることに。短期間で剣術を身に着けた丑五郎たちは、御用盗の急襲に成功。以後、人斬りとしての自信を深めていきます。

自らを完全に武士だと自覚するものも現れるなか、もともと侍に良い感情を持っていない丑五郎。果たして自分は農民なのか?武士なのか?実力を付けていきながらも、丑五郎にはどこか迷いのような部分を見せます。

そんな丑五郎、剣術の心得を島田に尋ねると、返ってきた答えは

「人をたくさん斬ることだ」


[松本次郎・永井義男 著 リイド社「いちげき」2巻より引用]

激烈な任務で己の手を血に染めながら、心の中に葛藤を抱く丑五郎。しかし否応なく迫る、伊牟田らとの戦い。物語に決着が着く頃、果たして丑五郎はどのような人間になっているのか…?

人斬りとなった農民が行き着く先が気になる物語。冷酷なように見えて、どこか人間味のある侍・島田の行動にも注目。

時代劇初心者にもオススメ

永井義男さん原作、松本次郎さん作画の漫画「いちげき」。武士VS武士ではなく、刀を持った農民を描く異色の時代劇。3巻を超えてますますおもしろくなってきました。

松本次郎さんは「女子攻兵」全7巻などで迫力のアクションを描かれていますが、時代劇「いちげき」でもその魅力を存分に発揮。思わず息を呑むような、激烈な戦いが展開されます。

ショッキングなシーンもあるので耐性の無い方は注意ですが、「寄生獣」レベルがOKならば大丈夫なのでは。何より松本次郎さんの洗練された作画、漫画としての美しさがあります。普段あまり時代劇を見ない・読まないという方にもオススメしたい漫画です。

漫画データ
いちげき (1) (SPコミックス)著者:松本次郎出版社:リイド社発行日:2016-11-30

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