「人魚」「人魚伝説」と言えば、美しい歌声で船を難破させるセイレーンや、人魚の肉を食べて800歳まで生きた、と言われる八百比丘尼などが有名です。
そんな「人魚」にまつわる怪異と、「人魚の肉」を食べて不老不死となった男女の旅を描いた漫画が、高橋留美子さん描く『人魚』シリーズ。
小学館の漫画雑誌「少年サンデー」「少年サンデー増刊号」にて、1984年より不定期連載。コミックスは『人魚の森』『人魚の傷』『夜叉の瞳』の3巻が刊行。アニメ化もされたホラー漫画です。
高橋留美子『人魚』シリーズ・あらすじ
毒性が非常に強く、食べた人間は時に死に、時に異形の怪物「なりそこない」となる「人魚の肉」。しかしごく稀に、人間の姿のまま「不老不死」となることも。
数百年前、漁師仲間と人魚の肉を食らった青年・湧太(ゆうた)は、一人生き残り不老不死に。以来、死ぬ方法を求めて500年の月日を過ごす。
そんな湧太がある日たどりついたのは、老婆ばかりの集落。そこでは床に臥せった少女・真魚(まな)が大切に育てられていた。
だが怪しげな老婆たち、何やら人魚のことを知っているようだが…?
…というのが、物語のスタート『人魚は笑わない』のあらすじ。
以降、湧太の過去の話を交えながら、湧太と真魚が行く先々で人魚絡みの怪異に出会う、という物語が展開されます。
高橋留美子『人魚』シリーズのココが面白い!
コメディ抜きのホラー
高橋留美子さんの漫画と言えば、『うる星やつら』『めぞん一刻』『らんま1/2』など、ラブコメ要素の強い作品が多め。
ですがこの『人魚シリーズ』は、完全にホラー。怖さ・おどろおどろしさを追求した雰囲気で、全編シリアスモード。
「闇」の描き方や、暗い雰囲気の描写が巧みで、終始ひんやりしたホラー感あり。
登場人物の見た目はラブコメ作品とほとんど変わらない。にも関わらラズ底冷えのするような怖さがあり、高橋留美子さんの表現力の凄みを感じます。
全編から感じる悲哀
そんな『人魚シリーズ』全編から感じるのは、恐怖と隣合わせの「哀しみ」。
湧太と真魚の旅って、救いが無いんですよね。そもそも湧太は「死」を求めて旅をしている訳で。
出会う人々も「人魚の肉」の強すぎる力に当てられて、時に欲をかき、時に運命に抗い、やがて悲惨な運命をたどる。
人間の欲深さ・業・哀しさを感じずにはいられない話の数々。読み終わったあとに、なんとも言えない寂寥感が残ります。
二人の旅路の終わりは…?
しかしこの悲しさ・寂しさこそが、『人魚』シリーズの大きな魅力。
ただ単に怖いだけではない。人魚の肉により運命の狂った人々の運命が、何ともいえない読後感を残します。
ホラーとしては非常に特異な雰囲気のある作品ですが、読めば読むほど、心に染み渡るものが。
そして「死」を求める二人の旅路、その終着点はどこなのか…?湧太と真魚の光なき行く末に、思いを寄せずにはいられません。
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感想・レビューまとめ
以上、高橋留美子さんの『人魚』シリーズ感想・レビューでした。
恐ろしくも面白い、絶妙なホラー感のある漫画…なのですが、現在は『人魚の森』『人魚の傷』『夜叉の瞳』の3巻を刊行し、未完!
現状の最終話である『最後の顔』の発表が1994年なので、完結はちょっと期待薄かも。
しかし今読んでも古さを感じさせない作品。高橋留美子ファンだけでなく、ホラー好きにオススメの漫画です。
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