地方都市を襲ったアウトブレイクを描いた漫画「リウーを待ちながら」。全3巻で完結となりました。
作者の朱戸アオさんは、これまでにも数々の医療サスペンスを描いてきた漫画家さん。
「リウーを待ちながら」は過去作「Final Phase」の拡大版とも言える内容で、朱戸アオさん初のナンバリング作品となりました。
本ブログでは過去に1・2巻のレビューをしましたが、本記事は全3巻をまとめてのレビュー・感想です。
「リウーを待ちながら」全3巻レビュー
地方都市を襲うアウトブレイク
富士の麓に位置し、自衛隊を擁する人口約9万の地方都市・横走(よこばしり)市。
中央病院の女医・玉木のもとに、吐血し倒れた2名の救急患者が運び込まれる。
1名が命を落とし、後に玉木の同僚看護士・鮎澤も同様の症状で還らぬ人に。さらに鮎澤の娘・潤月(うづき)も罹患。
謎の病気の正体は、中央アジアのキルギスから帰国した自衛隊員が持ち込んだ、伝染病「ペスト」だった。

[朱戸アオ 著 講談社「リウーを待ちながら」1巻より引用]
潤月は玉木の尽力により、一命を取りとめる。以降も感染者は増加するも、疫研・原神の迅速な対応、自衛隊医官・駒野の協力もあり、事態は収束へと向かう。
しかし横走市では、過去に抗生物質の効かないサルモネラ菌が発生。今回のペストも、残存していたサルモネラ菌と結びついていたことが判明。
致死率100%の病原菌へと変貌したペストは、横走市を再び地獄へと突き落とす。
日々倍増する感染者、そして死者。原神の進言もあり、政府は横走市の封鎖を決定。
街は過去に例を見ない、未曾有の事態に突入する―。
ペストの恐怖
という、緊迫の医療サスペンスが展開される「リウーを待ちながら」。別名「黒死病」とも称される感染症、ペストによる恐怖が描かれます。
その名を誰もが知る病気ですが、もう一つ日本では馴染みのないペスト。
歴史に詳しい方ならば、人口の1/3~2/3を死に至らしめたと言われる、中世ヨーロッパでの大流行を思い浮かべるかもしれません。
しかしペストは決して過去の病気ではなく、現在も死者を出し続けている感染症。
天然のペスト菌の根絶は困難であり、現在も継続して発生している病気であるという現状が、劇中で原神から語られます。
ちなみに駒野ら自衛隊が派遣された中央アジアは、ヒト・ヒトに直接感染する肺ペストを媒介する動物・タルバガンの生息地です。
封鎖される街
そんなペストにより引き起こされたアウトブレイク。物語序盤では、対応に追われる玉木・原神や自衛隊の、緊迫した様子が描かれます。
それは一時収束の兆しを見せるも、凶悪化したペストにより、事態はさらに深刻な方向へ。

[朱戸アオ 著 講談社「リウーを待ちながら」1巻より引用]
「ぼーっとしているとここは 中世ヨーロッパになる」
悲惨な未来を想像せずにはいられない、原神の一言。
死者は増え続け、やがて感染症法による特別措置により、横走市の封鎖が決定。
そして起こるのは、閉じ込められた人々への差別。
現実にきっと起こるであろう、ありとあらゆる苦難、またはかつてどこかで見たような、もしかしたら現在も進行形かもしれない風景が描かれます。
負け続ける人々
「リウーを待ちながら」の特異さは、悲壮感を漂わせつつも、読者が求めるカタルシスを安易に描かないところ。
本作では劇的に事態を改善させる特効薬も、患者たちを救うスーパードクターも登場しません。
劇中で展開されるのは、徹底的なリアル。ペストの猛威にさらされ、必死に抵抗を続けるも、為す術のない玉木たち。
2巻冒頭、他に打つ手はないか、と焦る玉木。しかし仮埋葬される遺体群を前に、原神は静かに言い放ちます。
「でも僕らはもう負けた」

[朱戸アオ 著 講談社「リウーを待ちながら」2巻より引用]
そしてこれからも負け続ける、と。
描かれるのはペストに打ち勝つ勇猛な姿ではなく、ただ悪化していく日々を重ねるだけの小さな背中たち。
リウーは現れるのか
3巻を読み終え、1巻から読み直してみると、やはり悲しい現実の方が目につく作品。原神の言葉どおり、「リウーを待ちながら」に勝者はいません。
しかし作中のところどころで描かれるのは、人間らしさ。
玉木、原神、潤月、駒野、カルロス(病院助手)…。困難に直面しながらも、それでも生きる、生きるしかない彼女たち。
そして己にできることを少しずつ始めた人々には、果たしてどのような運命が待ち受けるのか。
最終話、初見ではややあっさりした印象を、個人的には持ちました。
しかし何度も読み返してみると、決して多くは語らない主人公・玉木や潤月の姿から、じわじわと伝わるものがあります。
徹底的なリアルを描ききった物語であるからこその、納得のラストである、と感じました。
ちなみに「リウー」とは、カミュ作の小説「ペスト」に登場する医師、ベルナール・リウーのこと。「~を待ちながら」は、戯曲「ゴドーを待ちながら」から(おそらく)。
果たしてペストに侵された街に、リウーは現れるのか…?
まとめ
以上、全3巻で完結した漫画「リウーを待ちながら」のレビューでした。
作者の朱戸アオさんによると、本作は本来2巻完結予定だったものを3巻まで広げ、そして描き残しなく書けた作品とのこと。
当初は2巻で完結させる予定でしたが、関係者の皆様の熱意とご厚意で3巻まで描くことができました。
終わってみるともう少し描きたかったような気もしますが、これまで描いたどのマンガよりも描き残しなく描けたという実感があります。
「リウーを待ちながら」完結3巻本日発売。よろしくお願いします。— 朱戸アオ「リウーを待ちながら」1~3巻発売中! (@acatoao) 2018年3月23日
おそらく感動的にしようと思えば、いくらでもそうできるテーマでありながら、ブレずにひたすら現実味を追求した内容に、こだわりを感じます。
豊富な医学知識を織り込んだ緊迫の全3巻。ぜひ読んでみてください。朱戸アオさんの次回作にも期待。
講談社イブニング編集部により、「リウーを待ちながら」の紹介動画も製作されています。BGMが良い感じで盛り上がります(私のコメントも採用されていたり…)。
『リウーを待ちながら』
Twitterにて募集した皆様のレビューを軸として作られた完結記念動画公開!
ご応募ありがとうございました!
第3巻は3/23発売!#イブニング #リウーを待ちながら #リウーレビュー動画 #サスペンス #医療 #ペスト #カミュ #医者 #ミステリー #感動 #泣ける #名作 #心ゆさぶる pic.twitter.com/6srzi7xi5w— イブニング編集部 (@eveningmagazine) 2018年3月21日
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