「リウーを待ちながら」―アウトブレイクをリアルに描ききった医療サスペンス全3巻

地方都市を襲ったアウトブレイクを描いた漫画「リウーを待ちながら」。全3巻で完結となりました。

作者の朱戸アオさんは、これまでにも数々の医療サスペンスを描いてきた漫画家さん。「リウーを待ちながら」は、過去作「Final Phase」の拡大版とも言える内容で、朱戸アオさん初のナンバリング作品となりました。

本ブログでは過去に1・2巻のレビューをしましたが、本記事は全3巻をまとめてのレビュー・感想です。

リウーを待ちながら(1) (イブニングコミックス)著者:朱戸アオ出版社:講談社発行日:2017-06-23

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「リウーを待ちながら」全3巻レビュー

地方都市を襲うアウトブレイク

富士の麓に位置し、自衛隊を擁する人口約9万の地方都市・横走(よこばしり)市。中央病院の女医・玉木のもとに、吐血し倒れた2名の救急患者が運び込まれる。

1名が命を落とし、もう一人も重症。後に玉木の同僚看護士・鮎澤も同様の症状で還らぬ人に。さらに鮎澤の娘・潤月(うづき)も発熱。

謎の病気の正体は、中央アジアのキルギスから帰国した自衛隊員が持ち込んだ、伝染病「ペスト」だった。


[朱戸アオ 著 講談社「リウーを待ちながら」1巻より引用]

玉木の尽力により、一命を取りとめた潤月。以降も感染者は増加するが、疫研・原神の迅速な対応、自衛隊医官・駒野の協力もあり、事態は収束へと向かう。

しかし横走市では、過去に抗生物質の効かないサルモネラ菌が発生。今回のペストも、残存していたサルモネラ菌と結びついていたことが判明。致死率100%の病原菌へと変貌したペストは、横走市を再び地獄へと突き落とす。

日々倍増する感染者、そして死者。原神の進言もあり、政府は横走市の封鎖を決定。街は過去に例を見ない、未曾有の事態に突入する―。

ペストの恐怖

という、緊迫の医療サスペンスが展開される「リウーを待ちながら」。別名「黒死病」とも称される感染症、ペストによる恐怖が描かれます。

その名を誰もが知る病気ですが、もう一つ日本では馴染みのないペスト。歴史に詳しい方ならば、人口の1/3~2/3を死に至らしめたと言われる、中世ヨーロッパでの大流行を思い浮かべるかもしれません。

しかしペストは決して過去の病気ではなく、現在も死者を出し続けている感染症。天然のペスト菌の根絶は困難であり、現在も継続して発生している病気であるという現状が、劇中で原神から語られます。

ちなみに駒野ら自衛隊が派遣された中央アジアは、ヒト・ヒトに直接感染する肺ペストを媒介する動物・タルバガンの生息地です。

封鎖される街

そんなペストにより引き起こされたアウトブレイク。物語序盤では、対応に追われる玉木・原神や自衛隊の、緊迫した様子が描かれます。それは一時収束の兆しを見せるも、凶悪化したペストにより、事態はさらに深刻な方向へ


[朱戸アオ 著 講談社「リウーを待ちながら」1巻より引用]

「ぼーっとしているとここは 中世ヨーロッパになる」

悲惨な未来を想像せずにはいられない、原神の一言。ことば通り死者は増え続け、やがて感染症法による特別措置により、横走市の封鎖が決定。

そして起こるのは、閉じ込められた人々への差別。現実にきっと起こるであろう、ありとあらゆる苦難、またはかつてどこかで見たような、もしかしたら現在も進行形かもしれない風景が描かれます。

負け続ける人々

「リウーを待ちながら」の特異さは、悲壮感を漂わせつつも、読者が求めるカタルシスを安易に描かないところ

劇的に事態を改善させる特効薬も、患者たちを救うスーパードクターも登場しません。劇中で展開されるのは、徹底的なリアル。ペストの猛威にさらされ、必死に抵抗を続けるも、為す術のない玉木たち

2巻冒頭、仮埋葬される遺体群を前に、他に打つ手はないかと焦りを吐露する玉木。しかし原神は静かに言い放ちます。

「でも僕らはもう負けた」


[朱戸アオ 著 講談社「リウーを待ちながら」2巻より引用]

そしてこれからも負け続ける、と。描かれるのはペストに打ち勝つ勇猛な姿ではなく、ただ悪化していく日々を重ねるだけの小さな背中たち。

リウーは現れるのか

淡々と進行するパンデミックの恐怖と、人間の無力さ。全3巻を通して見ると、やはり悲しい現実の方が目につく作品。原神の言葉どおり、「リウーを待ちながら」に勝者はいません

しかし作中のところどころで描かれるのは、人間らしさ。玉木、原神、潤月、駒野、病院助手のカルロス…。困難に直面しながらも、それでも生きる、生きるしかない彼女たち。そして己にできることを少しずつ始めた人々に、待ち受けるものは?というのが大きな見どころ。

そして迎えた最終話。初見ではややあっさりした印象を持ちました。けれど何度も読み返してみると、玉木や潤月のあえて多くを語らない姿から、じわじわと伝わるものが。徹底的なリアルを描ききった物語であるからこその、納得のラストである、と感じました。

ちなみに「リウー」とは、カミュ作の小説「ペスト」に登場する医師、ベルナール・リウーのこと。「~を待ちながら」は、戯曲「ゴドーを待ちながら」から(おそらく)。果たしてペストに侵された街に、リウーは現れるのか…?

まとめ

以上、全3巻で完結した漫画「リウーを待ちながら」のレビューでした。作者の朱戸アオさんによると、本作は本来2巻完結予定だったものを3巻まで広げ、そして描き残しなく書けた作品とのこと。

おそらく感動的にしようと思えば、いくらでもそうできるテーマでありながら、ブレずにひたすら現実味を追求した内容に、こだわりを感じます。豊富な医学知識を織り込んだ緊迫の全3巻。ぜひ読んでみてください。朱戸アオさんの次回作にも期待。

リウーを待ちながら(1) (イブニングコミックス)著者:朱戸アオ出版社:講談社発行日:2017-06-23

講談社イブニング編集部により、「リウーを待ちながら」の紹介動画も製作されています。BGMが良い感じで盛り上がります(私のコメントも採用されていたり…)。

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