「リウーを待ちながら」―アウトブレイクをリアルに描ききった医療サスペンス全3巻

この記事は約5分で読めます。

地方都市を襲ったアウトブレイクを描いた漫画「リウーを待ちながら」。全3巻で完結となりました。

作者の朱戸アオさんは、これまでにも数々の医療サスペンスを描いてきた漫画家さん。「リウーを待ちながら」は過去作「Final Phase」の拡大版とも言える内容で、朱戸アオさん初のナンバリング作品となりました。

本ブログでは過去に1・2巻のレビューをしましたが、本記事は全3巻をまとめてのレビュー・感想です。

Kindleセール:

「リウーを待ちながら」全3巻レビュー

あらすじ

富士の麓に位置し、自衛隊を擁する人口約9万の地方都市・横走(よこばしり)市。その中央病院に勤務する女医・玉木のもとに、吐血し倒れた2名の救急患者が運び込まれる。

そのうち1名が命を落とし、もう一人も重症。原因がわからぬまま、後に玉木の同僚看護士・鮎澤も、同様の症状で還らぬ人に。さらに鮎澤の娘・潤月(うづき)も発熱し、新たな患者の発生が続く。

果たして謎の病気の正体は、中央アジアのキルギスから帰国した自衛隊員が持ち込んだ伝染病、「ペスト」だった。抗生物質の投与など玉木の尽力により、一命を取りとめた潤月。以降も感染者は増加するが、疫研・原神の迅速な対応、自衛隊医官・駒野の協力もあり、事態は収束へと向かう。

しかし横走市で、過去に抗生物質の効かないサルモネラ菌が発生していた事実が判明。今回のペストも残存していたサルモネラ菌と結びつき、「致死率100%の病原菌」へと変貌していた。

地獄と化した横走市で、日々倍増する感染者、そして死者。原神の進言もあり、政府は横走市の封鎖を決定。過去に例を見ない、未曾有の事態に突入する―。

リウーを待ちながら(1) (イブニングコミックス)朱戸アオ:講談社

ペストの恐怖

近代都市としては前代未聞のアウトブレイクに見舞われた街を舞台に、緊迫の医療サスペンスが展開される「リウーを待ちながら」。別名「黒死病」とも称される感染症、ペストによる恐怖が描かれます。

ペストとはその名を誰もが知る病気ですが、日本では「過去に存在した病気」として認識されがち。歴史に詳しい方ならば、人口の1/3~2/3を死に至らしめたと言われる、中世ヨーロッパでの大流行を思い浮かべるかもしれません。

しかしペストは決して過去の病気ではなく、現在も死者を出し続けている感染症。天然のペスト菌の根絶は困難であり、現在も継続して発生している病気である、という現状が、劇中で原神から語られます。

ちなみに駒野ら自衛隊が派遣された中央アジアは、ヒト・ヒトに直接感染する肺ペストを媒介する動物・タルバガンの生息地です。

封鎖される街

そんなペストにより引き起こされたアウトブレイク。物語序盤では、対応に追われる玉木・原神や自衛隊の、緊迫した様子が描かれます。その懸命な活動により、ペストの拡大は収束の兆しを見せるも、サルモネラ菌と結びつき凶悪化したペストにより、事態はさらに深刻な方向へ。

「ぼーっとしているとここは 中世ヨーロッパになる」

悲惨な未来を想像せずにはいられない、原神の一言。ことば通り死者は増え続け、やがて感染症法による特別措置により、横走市の封鎖が決定。

そして起こるのは、閉じ込められた人々への差別。現実にきっと起こるであろう、ありとあらゆる苦難、またはかつてどこかで見たような、もしかしたら現在も進行形かもしれない風景が描かれます。

負け続ける人々

「リウーを待ちながら」の特異さは、悲壮感を漂わせつつも、読者が求めるカタルシスを安易に描かないところ。劇的に事態を改善させる特効薬も、患者たちを救うスーパードクターも登場しません。

劇中で展開されるのは、ただひたすら、徹底的なリアル。ペストの猛威にさらされ、必死に抵抗を続けるも、為す術のない玉木たち。そして死を待つだけの市民たち。

2巻冒頭、仮埋葬される遺体群を前に、他に打つ手はないかと焦りを吐露する玉木。しかし原神は静かに言い放ちます。

「でも僕らはもう負けた」

そしてこれからも負け続ける、と。描かれるのはペストに打ち勝つ勇猛な姿ではなく、ただ悪化していく日々を重ねるだけの小さな背中たち。

リウーは現れるのか

淡々と進行するパンデミックの恐怖と、人間の無力さ。全3巻を通して見ると、やはり悲しい現実の方が目につく作品。原神の言葉どおり、「リウーを待ちながら」に勝者はいません。

しかし作中のところどころで描かれるのは、人間らしさ。玉木、原神、潤月、駒野、病院助手のカルロス…。困難に直面しながらも、それでも生きる、生きるしかない彼女たち。やがて己にできることを少しずつ始めた人々に、待ち受けるものは?というのが大きな見どころ。

そして迎えた最終話。初見ではややあっさりした印象を持ちました。けれど何度も読み返してみると、玉木や潤月のあえて多くを語らない姿から、じわじわと伝わるものが。徹底的なリアルを描ききった物語であるからこその、納得のラストである、と感じました。

ネタバレになるのでラストの詳細は書きませんが、「リウーを待ちながら」の最終話、好きなんですよね。何回読んでも、目頭が熱くなります。

ちなみに「リウー」とは、カミュ作の小説「ペスト」に登場する医師、ベルナール・リウーのこと。「~を待ちながら」は、戯曲「ゴドーを待ちながら」から(おそらく)。果たしてペストに侵された街に、リウーは現れるのか…?

まとめ

以上、全3巻で完結した漫画「リウーを待ちながら」のレビューでした。作者の朱戸アオさんによると、本作は本来2巻完結予定だったものを3巻まで広げ、そして描き残しなく書けた作品とのこと。

おそらく感動的にしようと思えば、いくらでもそうできるテーマでありながら、豊富な医学知識を織り込んで、ブレずにひたすら現実味を追求した内容に、こだわりを感じます。全3巻と読みやすい巻数で、オススメです。

講談社イブニング編集部により、「リウーを待ちながら」の紹介動画も製作されています。BGMが良い感じで盛り上がります(私のコメントも採用されていたり…)。

朱戸アオさんはドラマ化もされた「インハンド」ほか、多数の医療サスペンスを手がけられています。他作品もオススメなので、チェックしてみてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました