「将棋指す獣」―アマからのプロ編入を目指す女性棋士の過酷な戦い

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「けもの」ではなく「ケダモノ」。過酷な将棋の世界で、プロ棋士を目指してケダモノのごとく盤面で牙をむく、一人の女性を描く物語「将棋指す獣(しょうぎさすケダモノ)」。

原作は「アイアンバディ」の左藤真通さん、漫画は「ミリオンジョー」の市丸いろはさん。連載は新潮社のWebメディア「コミックバンチWeb」で、単行本は現在3巻まで刊行されています。

【追記】
「将棋指す獣」は連載分は22話、単行本は刊行予定の4巻までで一端完結。以降は個人配信という形での継続になるそうです。詳細は本記事後半にて。

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「将棋指す獣」レビュー

概要

かつてプロ棋士を目指し奨励会に所属していたが、謎の退会をした女性棋士・弾塚光(だんづか・ひかり)。将棋の世界から姿を消していた彼女が、突如アマの退会に参戦し優勝。プロ棋士を目指すことを宣言する。

しかしアマからプロになるには、様々な障壁が。果たしてそれを乗り越え、光はプロ棋士になれるのか?

…というプロ棋士へのチャレンジ・ストーリー。第一話冒頭では、光がすでにプロ棋士としてタイトルに挑戦する姿が。「将棋指す獣」ではそこにいきつくまでの過程を、彼女が持ついくつかの「謎」を絡めてドラマティックに描かれます。

将棋指す獣 1巻: バンチコミックス左藤真通,市丸いろは,市丸 いろは ほか:新潮社

プロ編入への高い壁

本編の内容に触れる前に、アマからプロ棋士になることについて、サックリと。

もともとプロを目指す棋士たちは「奨励会」に入り、まずはそこで三段を目指します。そこから四段に上がる=プロ棋士となるのですが、そこに26歳までに到達できなければ退会となります。

一方アマチュアからプロ棋士(四段編入)を目指す道は、二つ。一つはプロ公式棋戦にアマチュア枠または女流枠から出場し、一定の成績を収めたのち、新四段5名と対戦する編入試験に合格するもの。

もう一つは、主要アマ棋戦で優勝して、三段編入試験で所定の成績を収めたのち、三段リーグに編入し、半年間のリーグ戦を戦うもの。作中でベテランのプロ棋士・峰田は、このルートを「合格率0%」と評しますが、光はこの道を選びます。

(参考:「将棋指す獣」及び「Wikipedia棋士 (将棋)」より「プロ編入制度」の項。)

ちなみに本書の監修を務めるプロ棋士・瀬川晶司氏は、アマからプロに編入した数少ない人物の一人である、というのが物語のリアリティーを深めています。

主人公・光の謎

アマからプロへの険しい道。しかし主人公・光は、なぜかより難易度の高い道を選択。冴えない風貌で、日常でもぼんやりした雰囲気な彼女。普段はゲーム会社でデバッグのアルバイトをしながら、将棋の研究をする生活を送ります。

しかし将棋の事となると異様な集中力と、執着を発揮。勝負師の顔、いや、ケダモノの表情をのぞかせます。プロ棋士・峰田の言葉を借りると、光の指す将棋は「勝つために相手の手を殺し続ける」恐ろしい将棋。

果たしてその棋風の源は何なのか。そしてなぜ彼女は将棋の世界に戻り、プロ棋士を目指すのか。さらに、そもそも「なぜ奨励会を辞めたのか?」という謎が。そこにはある「噂」があるのですが、果たしてその真偽は…?見た目からは想像しにくい、ミステリアスな過去が気になります。

将棋の世界のドラマ

光のプロ棋士への道描く「将棋指す獣」。しかしアマからプロの道を目指すのは、光だけではない。元・奨励会の棋士や、アマチュアタイトルを持つ若手棋士など、個性的なライバルが光の前に立ちはだかります。

勝つか負けるか。極限まで高めた思考力で細い勝ち筋をたどっていく迫真の戦い。そして光の将棋は彼らに通用するのか。将棋の世界でしか見られない緊迫のドラマに、グッと引き込まれていきます。

また将棋界に戻ったことにより、かつて兄弟子だった天竜・赤烏(※天竜は架空のタイトル)、同じ師匠の元で学んだ、奨励会三段の現役女性棋士・菊一文字(きくいち・ふみこ)らと再会する光。彼らとの会話の中から、その過去が因縁も含めて徐々に紐解かれることに。その過程で描かれる、将棋の世界でしか起こり得ないエピソードの数々が、実におもしろい。

その中でも特に印象的だったのは、3巻で描かれる「師匠推薦」の話。元・師匠から三段リーグ編入試験を受けるための師匠推薦を断られた光は、偶然会ったプロ棋士・峰田に、自分の師匠になって欲しい、と懇願します。

しかし峰田の出した条件は、「夕方までに一千万を用意」すること。果たして光はその無茶振りをどうクリアするのか?ネタバレはしたくないので結末は書きませんが、「勝負の世界」らしい実に豪快なエピソード。漫画なんだけど、本当にありそう、と思わせてくれる絶妙なリアル感に読み応えを感じます。

4巻完結以降は個人配信へ

光の将棋界への復帰、そしてライバルたちとの戦いを経ていよいよプロ棋士になるための戦いへ、といった過程を1~3巻で描いてきた「将棋指す獣」。いよいよこれから…という盛り上がりだったのですが、原作・左藤真通さんによると、残念ながら4巻で連載がひとまず完結するとのこと。

が、左藤真通・市丸いろはコンビと瀬川六段の監修はそのままに、4巻以降の物語を個人配信という形で引き続き描かれるそうです。連載が終了するのはファンとして非常に残念ですが、物語の続きが読めるというのは何より。濃厚な将棋ドラマが行き着く場所を、見届けたいものです。

まとめ

以上、「将棋指す獣」1~3巻のレビューと、完結・続編のお話でした。

棋士たちの特殊な世界を描くために緻密な取材を重ねる左藤真通さんの原作と、緊張感あふれる迫真の勝負を描く市丸いろはさんの作画。両者ががっちりと絡み合い、緊張感のあるドラマを生み出している「将棋指す獣」。正直に書くと絵柄は若干クセがあるので、最初は少しとっつきにくいかもしれません。

でも読み進めると、「この絵じゃなきゃ、このドラマは描けない」と感じてくるから不思議。特にキャラクターの表情はシンプルなようでいて、複雑な感情が込められているよう。物語も作画も読めば読むほど味が出てくる、そんな漫画です。物語の続きがどうなるかはまだわからない部分もありますが、試し読みでもいいので気になった方はぜひ本編をチェックしてみてください。

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