一色登希彦さんの漫画「日本沈没」。
1970年代に映画化、さいとう・たかを氏により漫画化もされた小松左京氏の原作SF小説を、2006年に再度コミカライズした作品です。
物理的な「沈没」という未曾有の事態に、日本全体が否応なしに巻き込まれていく迫力のSF・パニック作品。電子書籍で全15巻が刊行されています。
漫画版「日本沈没」感想・レビュー
あらすじ・概要
東京・新宿の雑居ビル。その地下で突如、異常に熱が高まり、「ビル全体が地面に沈み、飲み込まれる」現象が発生。
ビル地下の居酒屋に居合わせたのは、深海潜水艇パイロット・小野寺俊彦、東京消防庁ハイパーレスキュー・阿部玲子、地球物理学者・田所雄介。
三人が力を合わせ、人々は辛くも難を逃れる。
しかし東京の一角で起こった「ビル消滅事件」は、これから日本全体を巻き込む、未曾有の災害の予兆に過ぎなかった…。
…以上が「日本沈没」の発端。これを契機に、
- ダイナミックなレスキューシーン
- スケールの大きい天変地異の描写
- 緊迫感あふれる政治パート
- 心揺さぶるヒューマン・ドラマ
といった多彩な観点から、文字通り「沈みゆく日本」が描かれていきます。
「日本沈没」への過酷な道のり
漫画「日本沈没」、まずレスキューシーンなど、局地的に描かれる場面場面の緊迫感がスゴイ。
日本沈没の「始発点」となるビル消滅事件はじめ、物語の随所に登場する人命救助シーン。生と死が隣り合わせに存在する現場において、緊張感あふれる展開が連続。
またそれと対象的な、日本全体に関わるスケールの大きな部分の描写がものすごい!
迫力。地震や津波などの天変地異から、日本の地下深くで進行する深海の大変動まで、人の手の届かない所で起こる絶望的な「日本沈没」への歩み。
「面白い」と軽々しく言えない、そのリアルさが怖い。
さらに政治的パートの描写にも大きな見どころが。「確実に大勢の人間が死ぬ」と判った時、果たして政治家はどのような判断を下すのか?
逡巡し、多いに悩みながら、国のために「決断」をしなければならない、日本国総理の「政治家としての生き様」は必見。
大局的な見地からの行動はやむなしと思いつつも、薄ら寒いものを感ぜずにはいられません。
そんな局地的・対極的な観点が目まぐるしく入れ替わりながら描かれる、「日本沈没」への道のり。
確実に起こる破滅へのカウントダウンに、手に汗握ること必至。グイグイ引き込まれていきます。
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迫真のヒューマン・ドラマ
そして物語の主役は災害ではなく、もちろん人間。
その中心となるのは、人と関わりを持たない孤高の潜水艇パイロット・小野寺と、誇りを持ってレスキュー業務にあたる玲子。
二人が幾度の交流を経てやがて心を通わせる、ヒューマン・ドラマが描かれていきます。
しかしその関係を揺らすのが、「日本沈没」という未曾有の災害。そして二人の仲を決定的に引き裂く出来事が。
小野寺と阿部。心の絆で結ばれながら、運命に翻弄される一組の男女。果たして彼らがたどり着く場所は…?
国土を失うという「日本人としてのアイデンティティ」が揺らぐ、過酷なシチュエーション。
その中で天変地異に翻弄されながらも、生に向かって歩みをやめない人々。その生き様、または死に様が、深く胸に突き刺さります。
圧倒的な迫力・緊迫感のある物語
なお本作についてフェアに書いておくと、日本沈没を阻止するために日本近海で◯◯を使うだろうか?という疑問や、原発に関する描写が無いなど、気になる点もいくつか。ラストに対しても賛否両論あるよう。
また漫画としては全15巻で完結していますが、最終ページには「第一部 完」とあり、続きの存在も知りたいところ。
※「日本沈没」第一部のその後を描く「日本沈没 第二部」は、谷甲州氏による上下巻の小説が刊行されています。
ただ個人的にはラストも含め、全15巻の内容には満足しました。
エンタメとしても災害に対する教訓としても、得るものが大きい漫画。特に序盤1・2巻は、一度読み出すと止まらない迫力・緊迫感が。
一度「日本沈没」の世界に足を踏み入れると、きっとその圧倒的な魅力を感じていただけるでしょう。
まとめ
以上、一色登希彦版・漫画「日本沈没」全15巻のレビューでした。
地震や数多くの災害に遭遇してきた日本に住む人間にとって、「面白い」の枠におさまらないリアルな漫画です。
現在は電子書籍版での刊行ということで、試し読みがしやすくなっています。さわりだけでも「日本沈没」の世界に触れてみてください。先が気になって仕方なくなる!はず。
「日本沈没」原作小説
小松左京さんの原作小説「日本沈没」は、文藝春秋・角川・光文社などから刊行されています。
小学館からは谷甲州さんによる第二部を含む、「日本沈没」上下巻・「日本沈没 第二部」上下巻が刊行されています。
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