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漫画版『舟を編む』感想―辞書編纂の世界を優しく描くドラマ作品

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辞書。学生の頃はあんなに使ってたのに、大人になったらとんと使わなくなったなぁ…。

そんな「辞書」の編纂、そしてそれに関わる人々の人間模様を描くのが「舟を編む(ふねをあむ)」です。

原作は三浦しをんさんの同名小説。コミック版は雲田はるこさんが担当しています。

「舟を編む」は映画化・TVアニメ化もされた作品。雲田はるこさんは元々、小説連載時の挿絵、そしてアニメ版のキャラデザ原案も担当された漫画家さん。

その世界観を理解した上でのコミカライズで上下巻完結。私は小説版・映像版いずれも未読・未見ですが、一つの漫画作品として楽しく読むことができました。

漫画版「舟を編む」レビュー

あらすじ

その人生をほぼ辞書作りに捧げてきた玄武書房社員・荒木。国語学者・松本と共に30年以上辞書に関わり、新辞書の刊行も決定する。

しかし定年を控えた荒木は、自分以上に辞書を愛することのできる、新たな辞書編集部員を探すことを決意。営業部所属の変わり者社員、馬締光也(まじめ・みつや)にたどり着く。

馬締の言葉に関する造詣の深さから、荒木は彼を辞書編集部に迎えることを決意。新辞書「大渡海」の制作がスタートする。

慣れない辞書作りに悪戦苦闘する馬締。疲れ切って下宿に帰ったある夜、月夜の下で佇む女性・香具矢(かぐや)と出会う―。

「舟を編む」各話の構成

「舟を編む」の世界観に触れたのはこのコミック版が初めて、そして雲田はるこさんの漫画を読んだのも初めてですが、素晴らしい作品でした

本作は全7話。各話でメインとなる人物が変わる構成(上巻4話、下巻3話)。

  • 第一話:荒木
  • 第二話・第三話:馬締
  • 第四話・第五話:西岡(辞書編集部員)
  • 第六話:岸辺(13年進んだ物語で新たに配属された女性編集員)
  • 最終話:馬締

以上を軸に、彼らの人生の物語、そして辞書作りの世界が描かれます。

辞書作りの世界

辞書、つまり「広辞苑」に代表されるようなそれ。流行の雑誌などに較べると地味だけど、とかく金も時間も膨大にかかる本

しかし実用的であるがゆえに、その使い勝手が求められるもの。また用いられる言葉の選択にも気遣いが必要

そんな辞書作りに人生をかける荒木と馬締の、印象的な出会い

「『右』を説明して」という荒木の問いに、「『方向』ですか?『思想』ですか?」と聞く馬締。

普通はそんな人いないですよね(笑)。でも「言葉に対する知識と感度」が求められるのが辞書作り。世界観の一端を表すシーンです。

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魅力的な人間模様

そんな辞書制作を背景に描かれる人間模様。これがまた素敵なんですが、その代表格が主人公・馬締とヒロイン・香具矢の出会い

香具矢は馬締と同い年の27歳で、下宿先の大家さんの孫。職業は板前という女性です。何とも魅力的なビジュアルの香具矢に、月夜の下で出会った馬締くん。そりゃ惚れるわ(笑)。

しかし恋愛経験の無い馬締くん、同僚でちょっとチャラい西岡のアドバイス?を受けながら必死にアプローチ。

馬締くんが辞書作りに悩みつつも、不器用に恋に落ちていく様子。読んでいてニヤニヤしてしまいます。

人間臭い西岡に注目

実は影の主役なんじゃないか?と思わせる人物にも注目。馬締と同い年で、軽薄を地で行く同僚編集部員・西岡です。

彼は仕事は卒なくこなしますが、荒木や馬締のように辞書に対する情熱は持ち合わせていない人間。

馬締が編集部に来てからほどなく、辞書編集に対する「差」を知り、やがて己の中に芽生える嫉妬に気づきます。

編集部で一人浮く自分を感じながら、それでも「自分自身にしかできないこと」を武器に行動、少しずつ変わっていく。

彼がメインの第四話・第五話は実に読み応えあり。本作で一番人間臭い、いい味を出している西岡くんが心に残ります。

人々の気持ちをのせた辞書

そして時は流れ、新辞書「大渡海」の制作もいよいよ佳境を迎えることに。笑い、涙、苦しみ、そして喜び。人々の気持ちをのせた辞書の完成は果たして―。

13年という長い年月を経て作られる辞書。本作は実際の出版社の辞典・辞書編集部の協力を得て感性している漫画。それだけに、辞書が出来上がるまでのドラマがよりリアルに感じられます。

「舟を編む」を読んだ後に辞書をパラパラとめくると、そんな人々の気持ち、そして言葉に対する想いを感じることができる、かもしれません。

まとめ

以上、漫画版「舟を編む」上下巻のレビューでした。群像劇・お仕事漫画としての要素も持つ本作。小説のコミカライズを上下巻のボリュームで、というところでいろいろと制約があっただろうと推察されます。

しかし「舟を編む」の世界を知り尽くした雲田はるこさんによる漫画化ということで、見事な全2巻完結の漫画となっているのではないでしょうか。楽しく、満足の読後感でした。

ところで辞書の編纂を「辞書を編む」といった言い回しで語ることがあります。本書タイトルは「舟を編む」。そして新しい辞書の名前は「大渡海」。そこにはある、素敵な想いが込められているのですが、それはぜひ本編で。

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