死をもたらす、悪魔の眼を持つ鳥。その前に人々は為す術もなく倒れ、滅亡へと近づく世界。そんな人類の脅威に立ち向かうは、仮面の老マタギ―。
藤田和日郎さんと言えば「うしおととら」「からくりサーカス」など、少年誌での長期連載が多い漫画家さん。
そんな藤田さんが青年誌で描いた漫画の一つが、この「邪眼は月輪に飛ぶ」です。2007年に週刊ビッグコミックスピリッツに全7回連載された作品。単行本は全1巻です。ちなみに「月輪」は「がちりん」と読みます。
当時スピリッツ誌を購読していた私は「え、あの藤田和日郎が青年誌で?」と驚いたものですが、毎号の連載を読んで、そのおもしろさにグイグイ引き込まれたのを覚えています。
「邪眼は月輪に飛ぶ」レビュー
あらすじ
東京の海で座礁した米空母。その積荷は、人を死に追いやる眼を持つフクロウ「ミネルヴァ」。アクシデントにより解き放たれたミネルヴァは、「邪眼」により多くの命を奪う。
ミネルヴァの行方を追うアメリカは、特殊部隊デルタのリード、およびCIAのケビンを日本に派遣。彼らがヘリで降り立った地には、かつてミネルヴァを追い詰めたマタギ・鵜平(うへい)が住んでいた。
老マタギに協力を依頼するケビンとリードだが、頑なに拒む鵜平。しかし義理の娘にして霊力を有する祈祷師・輪(りん)の説得により、協力を承知する鵜平。かくして4人はミネルヴァによる世界壊滅を防ぐため、決戦の地・東京へ向かう―。
圧倒的な恐怖であるミネルヴァ
はっきり言って、傑作。全1巻完結の漫画として、またアクション漫画として屈指の出来である「邪眼は月輪に飛ぶ」。文句の無いおもしろさです。
まず読者にインプットされるのは、ミネルヴァの圧倒的な「恐怖」。眼から黒い液体を滴らせながら大空を闊歩する約1.5mの巨大フクロウ。そしてその眼に映ったものは、間違いなく死を迎える。もうこんなんおったら無理ゲーやん、という程の絶望感があります。
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邪眼に闘いを挑む者たち
対するはその絶望に果敢に立ち向かう、4人の戦士たち。鵜平との親子関係がぎこちない輪。そしてそれぞれの過去に悔いを抱える鵜平・ケビン・リード。
4人ともがその背景に抱えるものがあるのですが、全1巻という短さながら、ミネルヴァとの闘いと平行して描かれる人間ドラマ。物語に奥行きを感じます。
迫力の戦闘。勝つのは…?
そしてスピード感あふれる戦闘。「見られたら死ぬ」という恐怖から生まれる緊張感。しかし彼らは歴戦の猛者たち。簡単には倒れません。
追いつ、追われつ、ミネルヴァに迫る鵜平たち。ドキドキしてページをめくる手が止まらない!
モンスターの恐怖、過去を持つ狩人たち、絶望的な迫力ある闘い。それらが全1巻のボリュームで見事におさまった、奇跡的な漫画です。
駆け抜ける物語
さらに4人だけではなく、モンスターの内面にも踏み込み、そして社会に対する問題提起もさりげなく織り込む。詰め込めるだけ詰め込んで、かつ描ききる。これこそ藤田漫画の真骨頂。ラストの描き方も秀逸。
「むかし むかし…」という本作の出だしがキレイに結びとなり、一つの物語の終わりを告げる。と同時に、さらに別の物語を予感させるような、そんな終わり方で満足の読後感です。
まとめ
高い完成度と確かなおもしろさを与えてくれる「邪眼は月輪に飛ぶ」。全1巻完結のストーリー漫画として屈指の出来。きっと1本の映画を見終わったかのような充実感が残ると思いますよ。オススメの一作です。
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