「からくりサーカス」―人類の存亡を賭けた熱き戦いに魂をゆさぶられる全43巻

読者にページをめくる手を止めさせない、迫力あるアクション・ホラー漫画。「からくりサーカス」です。

作者の藤田和日郎さんは、連載デビュー作「うしおととら」が大ヒット。

以降、「からくりサーカス」や「月光条例」「双亡亭壊すべし」など、ホラー要素を含んだアクション長編を数多く産み出されています。

そんな藤田和日郎漫画の中で、「からくりサーカス」は個人的に一番好きな作品。

全43巻(少年サンデーコミックス版)という長さながら、読み始めると止まらないおもしろさを持っています。

本記事ではそのストーリーや登場人物紹介を混じえながら、未読の方向けに「からくりサーカス」の魅力をご紹介します。

からくりサーカス(1) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:1997-12-10

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「からくりサーカス」レビュー

武器は懸糸傀儡

莫大な遺産を相続したために、親族から命を狙われる小学5年生・才賀勝(さいが・まさる)。

通りがかりの拳法青年・加藤鳴海(かとう・なるみ)は勝に加勢するが、殺し屋集団の使う謎の人形に苦戦。

それを助けたのは、サーカス団のフランス美女「しろがね」

勝の祖父に命じられ、彼を守るというしろがね。懸糸傀儡(けんしくぐつ。あやつり人形のようなもの)「あるるかん」を操り、敵を撃退。

しかしそこに、しろがねと同じく懸糸傀儡を操る敵が襲いかかり…。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」11巻より引用]

以上が「からくりサーカス」の導入部。勝・鳴海・しろがねを主役とする物語のスタートです。

分岐する物語

勝を守るために反目しあいながらも、共闘するしろがねと鳴海。

しかしその後、三人の道は別れることに。

勝としろがねは追手から逃れるために、復帰をかけるサーカス団一座と行動を共にする。

一方、勝を助けるために記憶と左腕を失った鳴海は、謎の青年ギイ・クリストフ・レッシュに助けられ、海外へ。

病原体を撒き散らす自動人形(オートマータ)の集団「真夜中のサーカス」との戦いに、その身を投じます。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」8巻より引用]

以降、物語は勝・しろがねの「サーカス編」と、鳴海・ギイの「からくり編」が、交互に描かれます。

「生命の水」をめぐる戦い

端折って説明してるので、物語の構図がわかりにくいかもしれませんが、「からくりサーカス」全体で敵となるのは、自動人形集団「真夜中のサーカス」

からくりサーカス(9) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:1999-08-07

その目的は、「生命の水(アクア・ウイタエ)」を使って人間になるために、その源である「柔らかい石」を手に入れること。

それを阻止せんとするのは、アクア・ウイタエを飲んだ人間たち

アクア・ウイタエを飲んだ人間は、5年に一度しか歳を取らない、という超人的な肉体を手に入れます。

と同時に人形破壊者「しろがね」となり、「柔らかい石」を守るためにオートマータと戦う宿命を背負う存在に。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」17巻より引用]

人間が使う武器の速度を超える、超スピードを持つオートマータたち。彼らは元々は、「ある人物」を喜ばすために創造されたもの。

そのため、武器を持たない相手に対しては、「芸を見せなければならない」(目に見えるスピードで動かなければならない)、という制約が。

その習性を利用するため、「しろがね」たちはオートマータに武器として認識されない、懸糸傀儡=マリオネットを戦いに用います。

鳴海は怪我の治療のために、「最後のアクア・ウイタエ」を与えられます。が、その濃度のためか完全な「しろがね」にはならず、彼のみ懸糸傀儡ではなく、中国拳法を武器とします。

そしてサーカス団のしろがねもまた「しろがね」なのですが(ややこしい)、その出自には秘密が…?

※「しろがね」は人形破壊者の総称ですが、劇中では同時に、主人公の一人である女性の固有名詞でもあります。

スピード感あふれる魅力的なドラマ

と、前置きが長くなりましたが、以上が「からくりサーカス」の基本的な設定。

全43巻を通して、勝・しろがね・鳴海の戦いを中心に物語が描かれます。

個別のバトルのみならず、全編に渡って駆け抜けるかのようなスピード感があり、またその要所要所でドラマティックな展開が。

そのどれもがおもしろいのですが、とりわけ注目したいのは「鳴海としろがねの関係」「仲間の死」そして「勝の成長」です。

鳴海としろがねのせつない関係

まず一つ目に注目は、鳴海としろがねの、息苦しいほどのラブ・ロマンス

からくりサーカス(31) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:2004-02-18

まるで人形であるかのように、感情を表に出さない冷徹な人形遣い・しろがね。

幼き頃より、人形破壊者としての過酷な戦いを重ねた彼女。勝やサーカス団の面々と過ごす内に、次第に人間らしい感情を表に出すように。

そして死んだ鳴海(しろがねは鳴海が生きていることを知らない)の存在、自分を笑わせてくれた彼への想いが、その心の中で徐々に燃え盛ってきます。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」31巻より引用]

一方、勝たちの記憶を失い、「しろがね」としてオートマータとの過酷な戦いに身を投じる鳴海。

しかしオートマータにより苦しむ人々、また傷つき倒れていく仲間たちを目の当たりにするうちに、その心は修羅に。

そしてある理由から、しろがねを憎むようになります。

しろがねという魅力的なヒロインと、鳴海という孤高のヒーロー。

一時、心を通わせた二人が、運命のいたずらから相反する存在となっていく

読んでいて、胸を掻きむしりたくなるようなせつなさを感じます。

倒れてゆく仲間たちの生きざま

「からくりサーカス」では、驚くほど仲間が死にます。

決して人の死を美化するものではありませんが、本作を語る上ではずせないのは、仲間の死。

それが魅力的に見えるのは、誰もが、誰かのために、傷つき倒れていくから。

ネタバレになってすみませんが、心に刻まれるのはやはり、ギイ・クリストフレッシュの最後

からくりサーカス(41) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:2006-02-17

勝たちを最終決戦に向かわせるために、おとりとなるギイ。大量のオートマータを、懸糸傀儡・オリンピアと共に迎え撃ちます。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」41巻より引用]

「からくりサーカス」における彼の立場を振り返ると、主人公たちをクールに、しかし優しく見守る存在。

時に兄として、時に父として、時に師として、鳴海・しろがね・勝に接してきた彼。

スカした伊達男で、決して本心をさらけ出しませんが、その心の奥底に流れるのは熱き血潮。

そして命の灯が消える瞬間、彼の心に浮かんだのは…。

震えるようなその最後は、必見。

少年・勝の成長

そして「からくりサーカス」を読み進めて一番驚くのは、勝の成長。

からくりサーカス(35) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:2004-12-17

最初はただおどおどしているだけの、気弱な少年だった勝。鳴海としろがねに守られ、のちにしろがねを母・姉のように慕う彼。

物語の主体は、鳴海としろがねだと思っていましたが…。

しかし彼こそが、「からくりサーカス」の真の主人公だった!

物語中盤で、鳴海と別れたギイに出会う勝。しろがねの過酷な運命を知り、そして自身の出自にまつわる謎と、呪われた因果に向き合う立場となります。

そこから逆に、しろがねを守るべく懸糸傀儡使いとなり、強い男になっていく勝。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」35巻より引用]

この勝の変化と成長がスゴイ。前半と後半の顔つきを見ると、「お前だれだよ…!」って言いたくなるぐらい(笑)。

「からくりサーカス」のメインはしろがねと鳴海だと思っていたので、正直ビックリするのですが、藤田和日郎さんの描き方がウマイ。

勝の熱血ぶりに、ページをめくる手に力が入ります。

自身の運命に立ち向かい、自分を守ってくれたしろがねや鳴海を幸せにするために戦う、勝の姿。

作品の大きな魅力となっています。

世界の行方は

それらを折り重ねて紡がれる「からくりサーカス」の物語。

終盤では世界を巻き込む、人類の生存を賭けた戦いが、勝たちとオートマータの間で繰り広げられます。

鳴海、しろがね、そして勝。彼らは果たして、どのような冒険の結末を迎えるのか?

壮大な戦いを駆け抜ける全43巻の最後には、心に残るラストが待っています。

というわけで、藤田和日郎さんの漫画「からくりサーカス」。

全43巻という大ボリュームですが、それを感じさせないスピード感、そして読み始めるととまらないおもしろさがあります。

本記事ではいくつかその魅力を語りましたが、それは「からくりサーカス」のごくごく一部。

読みはじめてわかるのは、長い物語を通して変化・成長していくキャラクターたちに、魅力があふれすぎていること。

一度感情移入すると、彼らの行く末を見届けずにはいられません。ぜひ一巻を手に取り、その震えるほどのおもしろさを体験してください。

なお序盤に出てくるキーワード「えんとつそうじ」を覚えておくと、終盤で鳥肌が立つほどの驚きが待っています。お楽しみに。

藤田和日郎「からくりサーカス」7巻
[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」7巻より引用]
からくりサーカス(1) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:1997-12-10

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