「からくりサーカス」―人類の存亡を賭けた熱き戦いに魂をゆさぶられる全43巻

未読の方に是非オススメしたい一品。漫画「からくりサーカス」全43巻です。

作者の藤田和日郎さんは連載デビュー作「うしおととら」が大ヒット。以降「からくりサーカス」や「月光条例」「双亡亭壊すべし」など、ホラー要素を含んだアクション長編を数多く産み出されています。

そんな藤田和日郎漫画の中で、「からくりサーカス」は個人的に一番好きな作品。全43巻(少年サンデーコミックス版)という長さながら、読み始めると止まらないおもしろさを持っています。

本記事ではそのストーリーや登場人物紹介を混じえながら、未読の方向けに「からくりサーカス」の魅力をご紹介します。

スポンサーリンク

「からくりサーカス」レビュー

武器は懸糸傀儡

莫大な遺産を相続したために、親族から命を狙われる小学5年生・才賀勝(さいが・まさる)。通りがかりの拳法青年・加藤鳴海(かとう・なるみ)は勝を助けるが、殺し屋集団の使う謎の人形に苦戦。

それを助けたのはサーカス団のフランス美女「しろがね」。勝の祖父に命じられたという彼女は、懸糸傀儡(けんしくぐつ。あやつり人形のようなもの)「あるるかん」を操り敵を撃退。しかしそこに敵の懸糸傀儡が襲いかかり…。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」11巻より引用]

以上が「からくりサーカス」の導入部。勝・鳴海・しろがねを主役とする物語のスタートです。

分岐する物語

その後すったもんだあって、三人の道は別れることに。勝としろがねは追手から逃れるために、復帰をかけるサーカス団一座と行動を共に。

一方、勝を助けるために記憶と左腕を失った鳴海は、謎の青年ギイ・クリストフ・レッシュに助けられ海外へ。以降、病原体を撒き散らす自動人形(オートマータ)の集団「真夜中のサーカス」との戦いに身を投じます。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」8巻より引用]

以降、物語は勝・しろがねの「サーカス編」と、鳴海・ギイの「からくり編」が交互に描かれます。

「生命の水」をめぐる戦い

端折って説明してるので物語の構図がわかりにくいかもしれませんが、「からくりサーカス」全体で敵となるのは自動人形集団「真夜中のサーカス」。その目的は「生命の水(アクア・ウイタエ)」を使って人間になるために、その源である「柔らかい石」を手に入れること。

それを阻止せんとするのは、アクア・ウイタエを飲んだ人間たち。彼らは5年に一度しか歳を取らないという超人的な肉体を手に入れると同時に、オートマータと戦う宿命を背負う人形破壊者「しろがね」となり、「柔らかい石」を守ります。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」17巻より引用]

オートマータたちは人間の武器を超える超スピードを持ちますが、元々ある人物を喜ばすために創造されたもの。そのため武器を持たない相手に対しては、目に見えるスピードで動かなければならない、という制約が。そのため、「しろがね」たちは戦いに懸糸傀儡=マリオネットを用います。

また、鳴海は最後のアクア・ウイタエを与えられますが、その濃度のためか完全な「しろがね」にはならず、彼のみ中国拳法を武器とします。そしてサーカス団のしろがねもまた「しろがね」なのですが(ややこしい)、その出自には秘密が…?

※「しろがね」は人形破壊者の総称ですが、劇中では同時に主人公の一人である女性の固有名詞でもあります。

スピード感あふれる魅力的なドラマ

と、前置きが長くなりましたが以上が「からくりサーカス」の基本的な設定。全43巻を通して、勝・しろがね・鳴海の戦いを中心に物語が描かれます。個別のバトルのみならず、全編に渡って駆け抜けるかのようなスピード感があり、またその要所要所でドラマティックな展開が。

そのどれもがおもしろいのですが、とりわけ注目したいのは「鳴海としろがねの関係」「仲間の死」そして「勝の成長」です。

鳴海としろがねのせつない関係

まず一つ目に注目は、鳴海としろがねの息苦しいほどのラブ・ロマンス

まるで人形であるかのように、感情を表に出さない冷徹な人形遣い・しろがね。幼き頃より人形破壊者としての過酷な戦いを重ねた彼女。勝やサーカス団の面々と過ごす内に、次第に人間らしい感情を表に出すように。そして死んだ鳴海(しろがねは鳴海が生きていることを知らない)、自分を笑わせてくれた彼への想いが、その心の中で徐々に燃え盛ってきます。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」31巻より引用]

一方、勝たちの記憶を失い、「しろがね」としてオートマータとの過酷な戦いに身を投じる鳴海。しかしオートマータにより苦しむ人々、また傷つき倒れていく仲間たちを目の当たりにするうちに、その心は修羅に。そしてある理由からしろがねを憎むようになります。

しろがねという魅力的なヒロインと、鳴海という孤高のヒーロー。一時、心を通わせた二人が、運命のいたずらから相反する存在となっていく。読んでいて胸を掻きむしりたくなるようなせつなさがあります。

倒れてゆく仲間たちの生きざま

「からくりサーカス」では驚くほど仲間が死にます。決して人の死を美化するものではありませんが、本作を語る上ではずせないのは、仲間の死。それが魅力的に見えるのは、誰もが、誰かのために、傷つき倒れていくから。

ネタバレになってすみませんが、心に刻まれるのはやはりギイの最後。勝たちを最終決戦に向かわせるためにおとりとなるギイ。大量のオートマータを、懸糸傀儡・オリンピアと共に迎え撃ちます。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」41巻より引用]

「からくりサーカス」における彼の立場を振り返ると、主人公たちをクールに、しかし優しく見守る存在。時に兄として、時に父として、時に師として鳴海・しろがね・勝に接してきた彼。スカした伊達男で、決して本心をさらけ出しませんが、その心の奥底に流れるのは熱き血潮。

そして命の灯が消える瞬間、彼の心に浮かんだのは…。震えるようなその最後は必見。

少年・勝の成長

そして「からくりサーカス」を読み進めて一番驚くのは、勝の成長。最初はただおどおどしているだけの気弱な少年だった勝。鳴海としろがねに守られ、のちにしろがねを母・姉のように慕う彼。しかし彼こそが「からくりサーカス」の真の主人公だった…!

物語中盤で、鳴海と別れたギイに出会う勝。しろがねの過酷な運命を知り、そして自身の出自にまつわる謎と、呪われた因果に向き合うとなります。そこから逆に、しろがねを守るべく懸糸傀儡使いとなり、強い男になっていく勝。


[藤田和日郎 著 小学館「からくりサーカス」35巻より引用]

この勝の変化と成長がスゴイ。前半と後半の顔つきを見ると、「お前だれだよ…!」って言いたくなるぐらい(笑)。最初は「からくりサーカス」のメインはしろがねと鳴海だと思っていたので、正直ビックリするのですが、藤田和日郎さんの描き方がウマイ。勝の熱血ぶりに、ページをめくる手に力が入ります。

自身の運命に立ち向かい、自分を守ってくれたしろがねや鳴海を幸せにするために戦う勝の姿。作品の大きな魅力となっています。

世界の行方は

それらを折り重ねて紡がれる「からくりサーカス」の物語。終盤では世界を巻き込んだ人類の生存を賭けた戦いが、勝たちとオートマータの間で繰り広げられます。鳴海、しろがね、そして勝。彼らは果たしてどのような冒険の結末を迎えるのか?壮大な戦いを駆け抜ける全43巻の最後には、心に残るラストが待っています。

というわけで藤田和日郎さんの漫画「からくりサーカス」。全43巻という大ボリュームですが、それを感じさせないスピード感、そして読み始めるととまらないおもしろさがあります。

本記事ではいくつかその魅力を語りましたが、それは「からくりサーカス」のごくごく一部。読みはじめてわかるのは、長い物語を通して変化・成長していくキャラクターたちに、魅力があふれすぎていること。一度感情移入すると、彼らの行く末を見届けずにはいられません。序盤に出てくるキーワード「えんとつそうじ」を覚えておくと、終盤で鳥肌が立つほどの驚きが待っています。お楽しみに。

からくりサーカス(1) (少年サンデーコミックス)著者:藤田和日郎出版社:小学館発行日:1997-12-10

コメント