完結から20数年経ちますが、今も色あせない完成度の高いSFロボット漫画。ゆうきまさみさんの『機動警察パトレイバー』。
少年誌である「週刊少年サンデー」に連載された、当時珍しかったメディアミックスの巨大ロボットもの。ですが大人になってから、いや、大人になったからこそ感じる面白みのある作品です。
連載は小学館の漫画雑誌「少年サンデー」で、全22巻完結済み(少年サンデーコミックス版)。以下、『機動警察パトレイバー』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『機動警察パトレイバー』とは?
概要
『機動警察パトレイバー』は、ゆうきまさみ・出渕裕・高田明美・伊藤和典・押井守の5名で構成されたグループ「ヘッドギア」による、メディアミックス作品。
まずは週刊少年サンデーにて、ゆうきまさみさんによる漫画連載がスタート。並行して製作された押井守監督によるOVAを経て、劇場版へと発展。のちにTVアニメ化や実写化もされた大人気作品です。
漫画版の基本設定はアニメ版(OVA版)と同一ですが、一部登場人物や細部の設定が若干異なり、ストーリーも漫画版オリジナルとなっています。
あらすじ
舞台は西暦2000年、「レイバー」と呼ばれる作業用ロボットが、そこかしこで稼働する近未来の世界。
その普及に伴い増加した「レイバー犯罪」に対抗すべく、警視庁は汎用レイバー「98式AV イングラム」を導入。
そのイングラムに搭乗する泉野明(いずみ・のあ)を中心に、「警視庁特車二課」の面々がレイバー犯罪に立ち向かっていく様子が、『機動警察パトレイバー』では時にシリアス、時にコミカルに描かれていきます。
そのストーリーの中で大きな軸となるのは、「特車二課 VS 多国籍企業シャフト・エンタープライズの企画7課」。
企画7課長・内海が開発、少年バドが操縦する黒いレイバー「グリフォン」とイングラムの対決が、物語の大きな見どころです。
『機動警察パトレイバー』レビュー
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ゆうきまさみ氏の表現力
さて漫画版『機動警察パトレイバー』。完結より約24年、スタートから数えると約30年前の作品ですが、これが今読んでも面白い!以下、その見どころをご紹介。
まず作品に今なお色褪せない魅力を与えているのが、何と言っても作者・ゆうきまさみさんの表現力。前作『究極超人あ~る』全9巻に次いでの連載となった本作で、その流麗な作画は完成した、と言っても過言ではないでしょう。
現在でこそCGを活用した、レベルの高いロボット漫画が多数あります。ですが当時の制作環境で、アニメ作品以上のレベルでメカをカッコよく描ける表現力は、特筆もの。
またメカのみならず、キャラクターの作画もレベルが高く、よく練られたストーリーも読み応えあり。ロボット漫画という枠にとどまらず、漫画としてシンプルにクオリティの高い作品です。
イングラムの洗練されたデザイン
主人公機であるイングラム(AV-98)の洗練されたデザインは、見るもの(犯罪者とか)に与える影響も考慮されているもの。
「レイバー」は作業用であり、均整の取れた人型である必要の無い世界において、その姿は一際目を引きます。
もちろんそれは設定上の理屈ですが、それを反映したデザインは実にロボットヒーローものらしいカッコよさにあふれています。
左右非対称の大きなアンテナも主人公機としては珍しいもので、独特のセンスが光ります。
そのデザイナーは、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のMSデザインを手掛けた出渕裕さん。時を経ても古さを感じさせず、「警察用のロボット」としても説得力を持つデザインです。
またライバル機である「グリフォン」のケレン味あふれるデザインも、イングラムと並んで相互にその魅力を高めあっています。
戦争をしない巨大ロボット
「巨大ロボットもの」と言えば、戦争をしているか異星人と戦っている、というのが良く見られるパターン。
ですが本作登場の「レイバー」は基本的に労働をするもの。もちろんパトレイバー(イングラム)も、基本的には労働をする道具です。
そして警察用ロボットの目的は、犯罪を犯す労働ロボットの取り締まり。「軍用レイバー」なるものも存在しますが、作中で描かれるのは命のやり取りではありません。
これは今見てもユニークな設定で、「兵器では無い巨大ロボット」という設定が、パトレイバーを唯一無二のロボット漫画にしています。
ちなみにイングラムの全高は約8m。ガンダムの約半分、『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグの約2倍のサイズ。親しみを感じる絶妙な大きさです。
操縦者は女の子
そんな巨大ロボットものである『機動警察パトレイバー』、ロボットを操縦する主人公・泉野明は婦人警官。つまり女の子です(彼女は20歳なので、「女の子」というのは少し失礼かもしれませんが)。
巨大ロボットが登場する漫画・アニメを見渡しても、「女の子が主人公パイロット」という作品は意外と無いもので、30年前ならなおさら。
劇中での彼女の活躍は、今読んでも新鮮さを感じます。また警察組織内における「婦警」の描写も、興味深いものが。
中年の魅力・後藤隊長
その野明の上司である、第2小隊隊長・後藤喜一。彼はパトレイバー以前の「隊長像」とは一線を画す、実にユニークなキャラクター。
パトレイバーを語る上で、絶対に外せない人物です。
一見やる気が無さそうに見えながら、かつては「カミソリ後藤」と異名を取った切れ者。曲者ぞろいの第2小隊を統率しつつ、その本領は、レイバーの暴れる現場以外でも発揮。
様々な事件の「裏側」を独自の嗅覚で読み取る、『機動警察パトレイバー』の影の主役とも言える後藤。中年ならではの渋さ・カッコよさを持つ、特異なキャラクターです。
悪の輝きを持つ内海
そして漫画版『機動警察パトレイバー』の「悪役」を務め、物語の敵役として異彩を放つのが、多国籍企業「シャフト」の企画7課課長・内海。ある意味、後藤隊長と対となる人物です。
内海を初めてみた時は、結構衝撃的だったなぁ…。全然悪役らしくないw。常に笑顔を絶やさない、人当たりの好さそうなビジネスマン然とした風貌。
しかして、その腹の中は真っ黒。とっつきやすい外見と子供っぽい性格の中に隠された、「得体の無さ」。次に何をするのか全く予想が付かない、物語を大きく引っ張っていくタイプの悪役です。
そもそも警察というのは、事件が起こってから行動するもの。内海が黒いレイバー「グリフォン」を使って起こす事件の数々が、物語の原動力となりました。
大人になって分かるその面白さ
そんな『機動警察パトレイバー』。その魅力を挙げればキリがないのですが、一つ言えるのは「大人になってからわかる面白さがある」ということ。
少年サンデー連載ということで基本は中高生向けであり、「正義のロボット VS 悪のロボット」という王道の構図。しかし今読み返すと…。
結構、大人向けのきわどい内容が描かれています(笑)。
バドが内海の「お稚児さん」じゃないかとか、後藤が部下と「泡のお風呂」に行くことを匂わせたりとか、週刊誌の見出しに「スワッピングクラブ」とか…。
少年誌連載とは思えぬ内容もチラホラ。
ちょっとアダルティックな要素に加え、縦割り社会である警察組織、非合法に活動する大企業、外国人労働者問題など、大人になったからこそより深く理解できる内容が、その物語の中にふんだんに盛り込まれています。
っていうか少年誌向けの内容じゃないw。
しかしそんな「現実社会のリアルさ」を物語に組み込むことで、作中の警察描写に説得力が増している、というのが『機動警察パトレイバー』ならでは。「大人が読んでも面白い巨大ロボット漫画」になっています。
レビューまとめ
以上、時を経ても独特の魅力を放つSFロボット漫画、『機動警察パトレイバー』のレビューでした。
大人になってから読み返すと、「野明+イングラム VS バド+グリフォン」という巨大ロボットものならではのワクワク感と、「後藤+特車二課 VS 内海+企画7課」という大人向けのサスペンスを同時に味わえる、一粒で二度おいしい作品、という印象です。
20数年前の作品ということで、連絡手段がポケベルだったり、ネットが電話回線だったり、といったレトロな描写もありますが、それを差っ引いても色褪せない面白さを持つ作品。
何より三大少年誌の一つ「少年サンデー」で巨大ロボット漫画が長期連載され、22巻まで続いたということが、その魅力を物語っています。
未読の方はもちろん、かつての読者も今読むとまた新しい発見ができる『機動警察パトレイバー』。他に類を見ない、オンリーワンの面白さを持った漫画です。
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