小学館「ビッグコミック増刊号」に連載中の「諸星大二郎劇場」掲載作品を中心に、諸星大二郎先生が2006年から2017年にかけて発表した短編が、一冊の単行本になりました。
「諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから」です。さてその中身は?
収録作品など
単行本「諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから」には、下記の漫画作品が収録されています(カッコ内は発表年度と出版社)。
- 闇綱祭り(2013・小学館)
- 雨の日はお化けがいるから(2015・講談社)
- ゴジラを見た少年(2014・小学館)
- 影人(2016・小学館)
- (眼鏡なしで)右と左に見えるもの~エリック・サティ氏への親愛なる手紙~(2016・小学館)
- 空気のような…(2006・朝日新聞出版社)
- 怒々山博士と謎の遺跡(2006・集英社)
- 怒々山博士と巨石遺構(2006・集英社)
- 河畔にて 第1話「クーリング・オフ」(2013・小学館)
- 河畔にて 第2話「上流からの物体X」(2016・小学館)
- 河畔にて 第3話「欲しいものは河を流れてくる」(2017・小学館)
以上、一部シリーズ物を含む全11編を収録。本単行本の出版元は小学館ですが、それ以外の出版社で発表された漫画も収録されているのは興味深く、またファンとしては嬉しいところです。
レビュー
以下、「諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから」のレビューです。
印象的だった作品
まずは読んで特に面白かった・印象的な作品について。
闇綱祭り
小さな田舎町の神社で毎年行われる綱引き行事「オツナヒキ」。そこである年に起こった不思議で恐ろしい出来事を描く「闇綱祭り」。
今にも稗田礼二郎が出てきそうな、ホラー・オカルト系の短編。諸星大二郎さんらしさがこれでもか!と詰まった濃密な漫画です。日常の一歩となりには「闇」が待ち受けているような、絶妙なホラー感。諸星先生のこういう話を久しく読んでなかったので満足。
雨の日はお化けがいるから
小学生の守くんは雨の日が嫌い。なぜなら雨の日にはお化けが出るから。お化けを避けるために、守くんは心の中で「ルール」を作るが…。
KADOKAWAより出版されている「あもくん」シリーズの一編。まさか本作で読めるとは。子どもの時って、ふとしたことで何かに怖さを感じたり、日常の些細なことにルールを作ったりしますよね(しますよね?)。
そんな子どもらしさと怪奇をうまく結びつけた秀作。諸星大二郎さんが過去に発表していた短編のような、何だか懐かしさを感じる作品でした。
影人
中国・宋時代の平凡な役人。彼の影は「影人」となり彼から離れ、影人の国へ行く。戻ってきた影人から自慢話を聞かされた役人は、今度は自分が影人の国へ行くことにするが…。
これもまた中国系の話を数多く発表している諸星大二郎さんらしい短編。どこか薄ら寒さを感じさせながら、昔話のような呑気な空気が漂うユニークな一編。
全体について
続いて単行本全体について。収録内容のジャンルは「妖怪ハンター」ばりの怪奇作品から「影人」のような中華系昔話、そしてコメディ作品までさまざま。どちらかと言えばコミカルな作品が多めです。
上記でご紹介した以外でも「ゴジラを見た少年」「河畔にて 第3話」など興味深い作品があり、個人的には諸星大二郎を充分堪能した、という読後感。欲を言えばもう少しホラー・オカルトに寄った作品があれば嬉しかったところ。
ただ良くも悪くも、「諸星大二郎さんの作品をある程度読み込んでいる」という読書体験が前提になる短編集。「闇綱祭り」「雨の日はお化けがいるから」「影人」といた短編作品はそれだけでも読み応えのある漫画なのですが、「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」以降の作品はコメディ色が強く、ある程度諸星作品のテイストを知っておいた方が、よりその内容を楽しめるのでは。
すでにその作風を熟知している、というベテラン読者にとってはもちろん興味深い漫画ばかり。約10年に渡る作品の数々を充分に堪能できるでしょう。
まとめ
以上、諸星大二郎先生の短編集「諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから」のレビューでした。第1集ということで、おそらく第2、第3と続くのでしょう(続くはず)。上記内容から初心者にオススメするものではありませんが、諸星ファンならばその「らしさ」を噛み締めながら、じっくりとページをめくりたい単行本です。
もし本作で初めて諸星大二郎先生の作品に興味を持たれたのならば、個人的にオススメしたいのは「不安の立像」や「失楽園」などのホラー・SF短編集。ですが残念ながら絶版。手軽にその作風に触れるならば、やはり「妖怪ハンター」シリーズや完結している「マッドメン」などでしょうか。電子版でも読むことができるので、ぜひ唯一無二の世界観に触れてみてください。
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