映画「機動戦士ガンダムF91」のその後の宇宙世紀を描く、長谷川裕一さんの「機動戦士クロスボーン・ガンダム」シリーズ。
木星帝国~ザンスカール帝国との戦いを経て、ついに新章「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」へと突入。
Vガンダム時代のさらに先、未知のガンダム世界が描かれます。
「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」は2020年10月現在、既刊11巻で以下続刊。
本シリーズから「クロスボーン」の英字表記が「CROSS BONE」から「CROSS BORN」へと変更。宇宙海賊の物語から、新世代のクロスボーン・サーガへの移行したことを指し示しています。
「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」感想
あらすじ
リガ・ミリティアVSザンスカール帝国の戦いから16年が経った、宇宙世紀0169年。
地球連邦の力は弱体化し、各コロニーの争いが激化。宇宙世紀のゆるやかな終焉を予感させる、混沌の時代へと突入。
その世界に抗うような「塵(DUST)」の一人、武装輸送団「無敵運送」を率いるアッシュ・キングは、盗賊団に襲われたコロニーで少女レオ・テイルを助ける。
メカニックの腕を持ち「争いの無い世界を作りたい」というレオを、無敵運送で雇うアッシュ。新体制の仕事第一弾として、フリーの傭兵カグヤ・シラトリから依頼された「連邦の戦艦による女性2千人輸送計画の妨害」に臨むことに。
その計画を主導するのは、一つ目のMS軍団を駆る連邦の部隊「キュクロープス」。リーダーであるアーノルドを追い詰めるアッシュたちだが、そこに謎の可変MSが割って入り―?
宇宙世紀末期のガンダム世界
以上が、「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」1~2巻のざっくりしたあらすじ。
以後、地球連邦軍が弱体化したことで混沌とする、宇宙世紀末期のガンダム世界が描かれます。
これまでにも一年戦争~Z・ZZ間、ZZ~逆シャア間、F91~Vガンダム時代のクロスボーン・シリーズなど、時代の狭間を描いたガンダムは多々ありました。
しかしVガンダム以後、映像化のされていない宇宙世紀を描くのは、この「クロスボーン・ガンダム DUST」がおそらく初めて。
感想としては…長谷川裕一さん、かなり好きにやってるな~(笑)という印象。
宇宙世紀ガンダムの世界観と、オリジナリティあふれるクロスボーン・サーガの世界観を、冒険活劇色と独特のテイストを強めて融合。「世紀末ガンダム」とも言えるガンダム・ワールドを展開しています。
MSは再び大型化へ
その世界観の中で特徴的なのが「MSが再び大型化する傾向にある」という設定。
進化の過程で恐竜的に大型化してきたMSが、技術革新とともに小型化していった、というのが、映画「F91」で採用されたMS観。
しかし「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」では世界全体の疲弊が進み、MSの新規開発、およびビーム兵器の維持が困難になっている、という背景が。
また実体弾の復活とともに、ビーム・シールドよりもブ厚い装甲が求められるように。結果、再び18m級のMSが台頭。
中古品のパーツを流用・組み合わせたミキシング・ビルドMSの増加や、かつての戦争で見た機体(のレプリカ)が多く見受けられるようになっています。
ちなみに1巻冒頭の敵メカはガンダム、の顔をしたバイアラン、だったりします。
意外な出自の主人公・アッシュ
そんな傾向を背景に持つDUSTのMS群。主人公機である「アンカー」は、額にヒートカッターを持つ全高18mの機体。
シルエット的にはガンダムを彷彿とさせますが、「ガンダム」とは呼ばれていません。
しかしその内部には「F89」の刻印が。これはかつてのフォーミュラ計画を想起させるものですが、アンカーの正体は果たして?
そのアンカーのパイロットは、運送会社社長で女好きのアッシュ。ちょっと唇厚めなナイス・ガイ。
新しい登場人物、と思いきや、実はすでにクロスボーン・シリーズに登場済み。
前作「機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト」の序盤にて、コロニーでギロチンにかけられそうになるところをフォント(ゴーストの主人公)に救われた少年がいました。その成長した姿が、アッシュその人です。
そこから主人公を持ってくるか!と、意外すぎてニヤリ。本作が「ゴースト」と地続きの世界観であることを強く認識させます。
敵となるのはかつての主人公
そのアッシュの前に立ちふさがるのは、連邦のキュクロープス。そして彼の命を救ったフォントその人。
前作「ゴースト」で人類滅亡の危機を救うため、クロスボーン・ガンダムX1のパイロットであるカーティスらと共に、ザンスカールのキゾ中将と戦ったメガネの主人公・フォント。
しかし「DUST」では、ティターンズの流れを汲むキュクロープスの黒い軍服に身を包む彼。
自ら「幽霊(ゴースト)」を名乗り、伝説の機体「ファントム」でアッシュの前に立ち塞がります。
え?なんで?あんなに熱い主人公だったのに…???
と思うところですが、フォントにはフォントの考え、目指す世界があるよう。
彼を「兄ちゃん」と慕うアッシュと、それを跳ね除けるかのような厳しさを見せるフォント。新旧ふたりの主人公たちがどのように交わっていくのか、DUSTの大きな見どころです。
新しい世界の構築へ
冒頭でも少し触れましたが、「DUST」で描かれるのはこれまでに描かれていない、未来のガンダム世界。
混沌、そしてゆるやかな崩壊へ向かっていく地球圏ですが、その流れを食い止めようと様々な思惑が交差し、絡み合います。
争いのない世界を作りたいと願うレオと、その気持ちに寄り添うアッシュ。
効率を求め、自身の考える理想の世界を、権力を利用しても作り上げようとするフォント。
一方、自らの力の及ぶ限りで、より良い世界への礎を築こうと、地道な努力を続ける人々。
これまでのガンダム世界の歴史を超えた、「CROSS BORN」の名に沿った新たな世界の構築が、どこへ行き着くのか?「機動戦士ガンダム」としても、長谷川裕一さん描く「クロスボーン・サーガ」としても、注目です。
「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」、ぶっちゃけて書くと、非常にクセが強いガンダム漫画。
無印クロボン~ゴーストまでは、個性の強い長谷川裕一テイストが漂いながらも、あくまでも「機動戦士ガンダム」の延長上にある物語、と捉えることができました。
が、長谷川裕一オリジナルと言ってもよいVガンダム以降のDUST世界(※一応サンライズ公認です)は、キャラクター・MS・物語背景など、どれを取っても既存のガンダムの世界観から大きく外れるもの。
宇宙世紀の末期を描く物語は、まさに「世紀末ガンダム」。なかなか破天荒で、取っ付きにくさもあります。
しかし読み進めると、なるほど、こういうガンダムもアリかな、と思えてくるから不思議。
主人公VSライバル、軍VS軍が描かれて来たこれまでのシリーズとは、ひと味もふた味も違う、さらにスケールの大きいストーリーに、グイグイ引き込まれていきます。
特に新たなボス敵・首切り王の登場、そして9巻で描かれる宇宙の危機は、「これは長谷川裕一で無いと書けないガンダムだわ!」と思わずにはいられないもの。今後の展開と物語の決着に、期待が膨らみます。
まとめ
以上、長谷川裕一さんの「機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST」感想でした。
上記でご紹介した以外にも、ZZで登場したムーン・ムーンが絡んできたり、サイコガンダムが出てきたり、クロスボーンの過去作に登場した人物たちが活躍したり、6巻ではこれまでに見られない鬱展開があったりと、見どころ満載です。
さらに10巻では新機体とその「衝撃のモード」が登場。ますます目が離せません。
DUSTが気になった方は、ぜひ無印クロスボーンから、クロスボーン・サーガの世界に触れてみてください。
ところで以下は余録。1巻では、アッシュのアンカーとズゴック・ゾック軍団が戦います。宇宙で。
ズゴックやゾックは大気圏内用の水陸両用機ですが、水中で運用するために気密性も高く、実際に宇宙空間でも利用可能であると考えられます(MS IGLOOのゼーゴックという例もあり)。
旧機体が多く利用されているという世界観で、一年戦争時の局地戦用MSが登場する、というのは不思議ではないのですが、まあこれは岡崎優版「機動戦士ガンダム」のオマージュなんだろうな、と。
1980年前後に執筆されたこの漫画。後年、アムロがやたら好戦的だったりしてネタにされますが、宇宙空間で戦うガンダムVSズゴック・ゾックも有名なシーン。最後、突進するゾックが真っ二つにされるところまで、そのまんま再現されています。
まさか21世紀に入ってかつての戦いを見ることになるとは。歴史は繰り返す…のか…(そうじゃない)。
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