時給ン万円、一案件ン百万円…。異常な高給が支払われる裏バイトには、やっぱり「裏」がある。
訳あってお金が必要な二人の女性が、危険と知りつつも裏バイトに関わり、恐怖の体験をしていくオカルト・ホラー漫画「裏バイト:逃亡禁止」。作者は田口翔太郎さんで、2021年2月現在3巻まで刊行、以下続刊です。
上は単行本ではなく、単話版のカバー。見てると何だか感覚が狂って不安になってくるこのイラスト、インパクトがあって好きなのよね。
「裏バイト:逃亡禁止」感想
あらすじ
森のリゾートレストランの住み込みバイト募集。その【時給】はなんと【15,000円】。
いかにも怪しげなそのバイトに募集してきたのは、白浜和美(しらはま・なごみ)と黒領ユメ(こくりょう・ゆめ)。和美は覚えがないが、ユメは和美と面識がある様子。
気さくなオーナーの下で、忙しいが至って普通の接客仕事をこなす二人。しかしこの仕事でこの金額はありえない、と言う和美は、ユメに問いかける。
「何かウラがあると思わない?」
そしてその夜から、森の中を一人さまよい、異常な形相をした女性に出会う、という不思議な夢を見るようになる和美。
一方のユメも異変を感じたのか、青ざめた顔で一人ブツブツとつぶやく。
「くさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさい…」
怪しすぎる裏バイト
…以上が第一話「ホールスタッフ」の序盤のあらすじ。まあ、なんやかやで恐怖の体験から脱出した二人は、実は中学の同級生だった、という関係(和美は忘れてた)。
好奇心旺盛で物怖じしない和美と、嫌な予兆が「匂い」となって表れるユメ。それぞれの事情でともにお金が必要な二人は、互いの持ち味を活かして「ハイリスクハイリターン」の裏バイトを「ローリスクハイリターン」にしよう!とコンビを組むことに。
しかし異常な高額報酬である裏バイト。何も起こらないわけがない!以降、裏バイトに果敢に挑戦する二人が、得も言われぬ恐ろしい目に遭っていく様が描かれていきます。
「裏バイト:逃亡禁止」は、連載している小学館のマンガアプリ「マンガワン」でも無料で読めます。
いい感じのB級ホラー感
「裏バイト:逃亡禁止」1巻は、森のレストランでの恐怖を描く第一話「ホールスタッフ」ほか、
- いわくつきのビルでの深夜警備。その七階には何かが…「ビル警備員」
- 2日後の15時までに「鞄」を届けろ。ただし絶対に中身は見るな。…「個人向け配送業」
- 謎の投薬バイト。報酬は1週間で三百万、「扉」を開ければさらに三百万。…「治験」
の計4編を収録。題材からして「いかにも」なオカルト・ホラー感あり。ホラー漫画ファン、こういうの好きじゃないですか?私は大好きです(笑)。
そんなベタなホラー・ネタながら、各話の風味づけは微妙に異なり、展開の読めないつくり。ちょっと荒い感じの作画と、絶妙な雰囲気の相乗効果で、最後までドキドキが持続。得体のしれない不安・恐れ・不条理の詰まった、いい感じの「B級ホラー感」があります。
4話の中で特に気に入ったのは「個人向け配送業」。鞄を指定期日までに届けるだけ。ただそれだけの仕事。しかし行く先々でなぜか、人々が鞄を奪おうとする。果たしてその中身は…?というストーリー。全編に漂う得体のしれない恐怖に、奇妙なゾワゾワが。
ユニークな裏バイト・コンビ
特有のB級ホラー感に新鮮味を演出しているのが、「裏バイト」という今風な設定。犯罪絡みで使われたりもする言葉ですが、本作では謎の、というか、「絶対に裏のある高額報酬な闇仕事」を指すそれ。妙な怪しさ・リアルさ、そして怖さを感じさせます。
その裏バイトに応募する主人公たち。イケイケで行動力のある和美と、「クサッ」と危険を察知して慎重に恐怖回避をするユメ。一見タイプの違う二人ですが、実は根っこで互いを認めあっていたり。二人が回を追うごとに良いコンビとなっていく過程にも、ホラーとはまた別のおもしろさがあります。
しかし、命の危険があるとわかっていても、お金が必要なゆえに裏バイトに手を出さざるを得ない二人。その「逃げ出したいけど逃げられない」気持ちが伝播するのか、ページをめくるたびに、何だか読み手も追い詰められている気分に。
「バイト」という身近な設定、そして二人への同調が、奇妙なヴァーチャル感を生み出し、恐怖を増幅させるという構造が、本作の魅力です。
「裏バイト」の先に待つものは…?
そして1巻以降、数々の裏バイトをこなしていくユメと和美。生還率の高さから業界で話題になり、バディ希望が増えてきている、という「裏バイト事情」が面白いw。
2巻後半収録の「水族館スタッフ」からは、かなり天然の入っている和美の後輩・橙(だいだい)が登場。物語に新たな奥行きが付加されます。彼女、なかなかいいキャラクターしてるんですよ…。
そんな決死の裏バイト稼業とともに、徐々に明らかになっていく主人公二人の背景。どうしてお金が必要なのか?今のところ謎なのですが、特に和美にはなにやら複雑な家族事情があるようで…。
彼女たちには明るい未来が待っていて欲しいのですが、恐ろしい目に遭えば遭うほどホラーとしては面白いので、もっとひどい目に遭って欲しいものです(オイ)。
まとめ
以上、田口翔太郎さんのオカルト・ホラー漫画「裏バイト:逃亡禁止」感想でした。
「いかにも」な都市伝説風恐怖エピソードと、「バイト」という日常感の奇妙な取り合わせが、絶妙な怖おもしろさを生み出しています。近年のホラー漫画の中では傑出した面白さ。ぜひ裏バイトの世界に飛び込んでみてください。
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