人間とほぼ変わらない外見だが、頭脳はAIであるヒューマノイド。そんなヒューマノイドたちと人間が共存する近未来をドラマティックに描くSF漫画が、山田胡瓜さんのSF漫画「AIの遺電子」です。タイトルの「AI」は「エーアイ」ではなく「アイ」と読みます。
連載は週間少年チャンピオン。作者の山田胡瓜さんは、IT記者から漫画家になられたという異色の作家さん。「AIの遺電子」以前に「バイナリ畑でつかまえて」を発表されています。
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「AIの遺電子」1~6巻レビュー
概要
「AIの遺電子」は、基本一話完結形式のSF漫画。国民の1割がAIの頭脳を持つ「ヒューマノイド」である、という世界が舞台です。
メインキャラクターは、人間の医師・須堂光と、それをサポートするヒューマノイドの看護士・リサ。須堂は人間やAIの診察・治療を行う一方、「モッガディート」という裏の名前で、非合法な治療依頼を受けることも。
各話の主役は、基本的に須堂とリサの二人。ですが必ずしも彼らが必ず主体、というわけではなく、人間・ヒューマノイド・ロボット取り混ぜ、様々な主体に起こる出来事が都度、オムニバス的に描かれることもあります。
ヒューマノイドと人間の共存を描くSF
「AIの遺電子」では、人間とヒューマノイドが結婚したり、養子を迎えて家族を構成したり、といったことが「あたりまえ」のこととして描かれます。またAIが極度に発達しないよう、ある種の制限を受けている、という前提も。
ジャンルとしてはSF漫画なのですが、あえて設定をギチギチにしていない、自由度を感じるSF。少年誌での掲載ということもあるでしょうが、SF作品なら疑問を持つであろう深い部分には触れずに、ヒューマノイドがいる世界で起こる「もしも」が、各話でフォーカスされます。
もしも、自由に記憶や性格を改変できたなら?もしも、外見や体の能力を優秀なパーツに変えられたなら?もしも、愛する人について選択肢を迫られたなら?
もしも、若返って青春をやり直せたなら?人間とAIが共存する世界の働き方は?そして人間・AI・ロボットの境目とは何か…?
そんな「もしも」の数々。オチはいい話だったり泣ける話だったり、ちょっとゾッとする話だったり。そこから突きつけられるのは、「人間らしさ」とは?そもそも人間とは?「生きる」とはどういうことか?など、人間の本質に関わる内容です。
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ラストで感じるモヤモヤこそが面白い
各話のラストは明確な答えの提示がなかったり、唐突に終わったかのような印象を受けるものもあり。そのため読後にモヤモヤが残ることもしばしば。
しかしそのモヤモヤ感こそが、この「AIの遺電子」のおもしろさ。そのモヤモヤに対して読み手は、「自分だったらどうするだろう?」と考えずにはいられない。読者が作品の内容を振り返り、「答え」を考えてはじめて完結するのが「AIの遺電子」の醍醐味。
くっきりはっきりの結末を望む人は、消化不良を感じるかもしれません。しかしその雰囲気を物語と一体になって楽しめるのであれば、何度も繰り返し読みたくなる魅力に満ち溢れた作品といえるでしょう。
私は興味深く読むことができましたが、ある意味「読者参加型」のような側面のある漫画ですね。ちなみに作中において、人間とヒューマノイドは「目」の描かれ方によって区別可能。「あれ、今出てきたあの人は人間?ヒューマノイド?」なんてことに注目すると、物語により深みがでます。
まとめ
AIは、現代の生活においても陰に日向に活躍する存在となってきました。わかりやすいところでは将棋や囲碁のプログラムなどが良い例でしょうか。AIの頭脳を持つヒューマノイドと共存する世界も、ひょっとするとそう遠くない未来なのかも。
そしてそんな世界が少年誌であるチャンピオン誌に連載されて、単行本も6巻まで刊行されているということを高く評価したい。大人だけではなく、想像力豊かな子どもたちにも読んで欲しい作品です。
余談ですがこちらは6巻の表紙。こういう「踊りませんか?」みたいな雰囲気、好きだなぁ。
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