「これは広大な大陸を翻弄した一人の魔女の話―」13世紀のモンゴルで後宮に仕えた少女は、いかにして「魔女」と呼ばれるようになったのか?
実在の人物ファーティマ・ハトゥンの数奇な生涯を軸に、「女性たちから見たモンゴル帝国」を描く歴史ロマン漫画。トマトスープさんの『天幕のジャードゥーガル』レビューです。
連載は秋田書店のWeb漫画メディア「Souffle(スーフル)」で、ボニータコミックスより単行本1~4巻が刊行中(2024年10月現在)。以下『天幕のジャードゥーガル』の主なあらすじや見どころなどを、基本ネタバレなしでご紹介します。
『天幕のジャードゥーガル』あらすじ
西暦1213年。イラン東部の都市トゥースで、さる裕福な家庭に引き取られた奴隷の少女・シタラ。そこで出会った学者を志す少年・ムハンマドから刺激を受け、自身も「知」を求めるように。
主人の計らいで、高度な学問に触れながら成長していくシタラは、充実した日々を送る。だがトゥースに侵攻したモンゴル軍によって平穏な日々は打ち砕かれ、明日をも知れぬ捕虜の身に。
そこで持てる知識を活かし、チンギス・カン(※本文表記より)の息子たち、そして後宮の女性と関わるように。「ファーティマ」と名乗り、その道を切り開いていくー。
『天幕のジャードゥーガル』レビュー
興味深いイスラム文化の描写
『ダンピアのおいしい冒険』の作者・トマトスープさんが新たに描く『天幕のジャードゥーガル』。異国モンゴルで、過酷にして不思議な運命をたどる女性の物語です。
その第一話で、奴隷の身分ながら学問に触れていく、主人公の少女・シタラ。
「知を求めることがつとめ」というイスラム教徒の姿勢や、関連して「奴隷に教養を身に着けさせる(こともある)」というやや特殊な奴隷の概念など、描かれる文化の様子がとても印象的。
そして屋敷のお坊ちゃんにして秀才な少年・ムハンマドと出会い、「学ぶこと」の意味・大切さを知っていくシタラ。
彼女がその聡明さを開花させていく過程が、当時のイスラムならではの文化事情と相まって、興味深く描かれていきます。
一転、異文化の中で生き抜く少女
しかし2話で物語は一変、心地よい雰囲気を壊す衝撃的な出来事が!
チンギス・カンの息子たちが率いるモンゴル軍勢が、トゥースに侵攻!街は壊滅し、シタラも捕虜に…。
…と、ここからが『天幕のジャードゥーガル』の本格的な開幕。日常を失い絶望の淵に落とされながらも、恩義ある主人が大事にしていた「本」を取り戻すため、再び立ち上がるシタラ。
モンゴルという異文化・異宗教の中にある知識・科学を吸収、イスラム文化で培ったものも活かし、己の知性を磨いていくことに。この過程がとても面白い!彼女の見せる「決意の表情」に引き込まれていきます。
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ヘビーなストーリーと歴史ロマン
そして己の唯一の武器である「知性」をたよりに、チンギス・カンの一族、さらに後宮と関わっていくシタラは、「ファーティマ」と名乗るように。
物語冒頭のモノローグによると、やがて「広大な大陸を翻弄する魔女」となっていくであろうシタラ=ファーティマ。
果たして彼女は、どのような道をたどってそこに行き着くのか?異国の地でひとり、「知」の力を武器に生き抜くその生き様に、大きな興味を掻き立てられていきます。
可愛らしい絵柄と相反するような、ヘビーな歴史ロマン。今後描かれていくであろう、モンゴル後宮の権謀術数にも期待が高まる…!
レビューまとめ
以上、トマトスープさんの漫画『天幕のジャードゥーガル』のネタバレなしレビューでした。
親しみやすい絵柄ながら、非常にヘビーなストーリー。そして丁寧な物語運びから浮かび上がってくる歴史ロマンが、とても魅力的な作品です。
また劇中の雰囲気を形作る、デザインセンスあふれる描写がとても素晴らしい!シンプルで力強い線と、程よく緻密に書き込まれた風景が、読者をエキゾチックな空気に誘います。そんな作者ならではのマンガ表現にも注目。
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