戦災孤児だった少女は、未来を視る力を持つ不思議な青年「白眼子」に出会い、その運命を大きく変えていく―。
戦後の北海道で数奇な運命をたどった少女と、彼女が出会った不思議な青年を描く、オカルト風味も絡んだヒューマン・ドラマ。山岸凉子さんの漫画『白眼子(はくがんし)』感想・レビューです。
単行本はKADOKAWAより刊行、表題作のほか短編『二日月』を収録。本記事ではその中でも150ページ超の中編『白眼子』をご紹介します。
『白眼子』あらすじ
時は昭和21年10月、場所は北海道の小樽。冷え込む市場で、一人置き去りにされた戦災孤児の少女。どことも知れぬ路地裏で、凍死寸前に…。
その彼女を拾い連れ帰ったのは、気の強い美人の姉と、目の見えぬ弟。裕福な暮らしをしている二人だったが、その理由は弟の「人智を超えた力」によるものだった。
北海道全域に「白眼子(ハクガンシ)さま」として名を知られる彼のもとには、太平洋戦争で行方不明となった兵士の身内が、消息を尋ねてひっきりなしに訪れる。
引き取られ「光子(みつこ)」と名前を与えられた少女は、その「助手」として不思議な体験をしていくことに―。
『白眼子』のココが面白い!
不思議な力を持つ青年・白眼子
戦後の混乱の中、人知れず人生を終えようとした少女が、不思議な因果で姉弟に引き取られ成長していく。漫画『白眼子』ではその様子が、少女=光子の視点で描かれていきます。
光子の世界の中心となるのは、「白眼子さま」と呼ばれる弟。先天的に目が見えない彼は、「運命観相」と評される能力で人々の消息を視るほか、「病のお祓い」などをすることも。
終始落ち着き、何かを悟ったような、物腰の柔らかな青年。「超能力者」とも「霊能力者」とも言える、人智を超えた力を持ちながら、しかし決して欲をかかない。
そして「どうやら人の幸・不幸はみな等しく同じ量らしいんだよ」と光子に語る彼の優しさに、物語を読みながら引き込まれていきます。
光子と姉弟の不思議な関係性
その姉弟と共に暮らす光子。その普段の仕事は、白眼子の助手をしたり、「力」を使って疲弊した彼の面倒を見たり。
ですが「仕事」と言っても別にこき使われるという訳でもなく、かと言って甘やかされている訳でもない。
当時の身寄りの無い身としては、比較的恵まれているであろう環境で、学校にも通わせてもらいながら成長していきます。
そんな3人の微妙な関係性が、不思議と居心地の良いもの。特段ドラマティックな出来事は起こらないけれど、なぜか感じる充足感に心が満ち足りていくような。
しかし光子が17になる頃に、その「身の上」に関わる出来事で大きな転機が。そしてさらに成長した光子に、その人生で「最大の危機」が訪れ…?
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白眼子が光子を引き取った理由は…
そんな少女の数奇な人生が綴られる『白眼子』。山岸凉子さんの丁寧な物語運びもあって、読めば読むほどにその世界に没入していく、不思議な吸引力のある漫画です。
そして読みながら気になるのは、そもそも「白眼子はなぜ光子を引き取ったのか?」ということ。
器量も要領も特別良いわけではなかった彼女ですが、白眼子は市場で「あえて彼女を選んだ」ふしがある。
さてそれはなぜか?が徐々に明らかになるのですが、そこで描かれる「人の縁」に不思議な感情と、静かな感動が沸き起こります。
感想・レビューまとめ
以上、山岸凉子さんの漫画『白眼子』感想・レビューでした。
オカルト・ホラー作品を多数排出されている山岸凉子さんですが、本作はオカルト風味をベースにしたヒューマン・ドラマ。一味違った読み心地があって、意外な満足感がありました。
読むと知らず知らずのうちに光子とシンクロ、そして青年・白眼子の人生に思いを馳せずにはいられない。不思議な読後感のある作品です。
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