目が見えず、耳が聞こえず、喋れない。そんな三重苦を背負った少女が、愛犬とともに人知を超えた出来事に出会う物語。木々津克久(きぎつかつひさ)さんの漫画「ヘレンesp」を読みました。
週刊少年チャンピオン誌にて、2007年から2010年まで不定期連載された、全2巻完結の漫画です。カバーは盲導犬と共に朗らかに歩く少女。やわらかな雰囲気ですが…?
「ヘレンesp」レビュー
概要
5年前の自動車事故で両親を亡くし、自身も視力・聴力・言語を失った少女・ヘレン。事故以来、不思議な力を宿した彼女は、心を通わせる愛犬ヴィクターと共に不可思議な現象の数々に遭遇する…というストーリー。
基本一話完結。ヘレンが力を使って物事を解決する、という形式ではなく、ハートフルな話・怖い話・人間の暗部を描いた話など描かれる物語は様々。どちらかと言えばバラエティに富んだオムニバス、といった趣でしょうか。
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三重苦の少女が遭遇する不思議な出来事
本作は、作者・木々津克久さんの代表作の一つ「フランケン・ふらん」と同時期に連載された漫画。
木々津克久さんの週刊少年チャンピオン連載としては、後にミステリーもの「名探偵マーニー」、そしてオカルト+ミステリーの「兄妹」があります。「ヘレンesp」はそれらにつながっていく、プロトタイプのような印象を受けます。
ヘレンは目が見えず、耳も聞こえず、ゆえに話すのも不自由という設定。作中では盲導犬としてそばにいるヴィクターと、テレパシーのような形で会話をしていますが、同居の叔父や友人たちとは普通のコミュニケーションが取れません。
そんな彼女が出会う出来事。人間の悪意が引き起こしたものだったり、得体の知れない魔の力だったり、時にはファンタジックなちょっといい話だったりと様々。またヘレンの持つ不思議な力も規則性を持つものではなく、話によってその発露は変化します。
クセになる木々津作品の世界観
各話の自由度の高さは、木々津作品に触れたことのない読者であれば、ちょっと戸惑う部分もあるかもしれません。が、読み慣れてくるとその独特な世界観がクセになってくるのも、また木々津漫画の魅力。
個人的に好きな話は、2巻収録の第17話「ヘレン食べ過ぎる」。なんだそれ、ってなタイトルですが(笑)。名前以外その由来がわからない、とある銅像にまつわるちょっといい話。
ヘレンのおじさんが倒れた時に助けてくれた人物の正体は…?フィクションなんですが、本当にありそうなファンタジックな一話。おどろおどろしい話も面白いのですが、予想外にこういう作品にあたるのが木々津漫画のいいところだなぁと再認識。
まとめ
残念ながら全2巻で完結している「ヘレンesp」ですが、物語として明確な終わりを示しているわけではないので、また続きを読んでみたい漫画です。木々津克久さんの漫画の入門編としても読みやすい一作なのではないでしょうか。
「ヘレンesp」を読んでその作風に馴染んだら、次は「名探偵マーニー」がオススメです。そして本作を読んだあとに「アーサー・ピューティーは夜の魔女」を読むと、ちょっとした仕掛け、というか「毒」があって、最高に面白いですよ。
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