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漫画『マイナス 完全版』感想―美貌の女教師が事件を巻き起こす!サイコ・スリラー

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幼少時のトラウマから、「嫌われたくない」という感情が異常に強い新任女教師。

その脅迫的な観念が、やがて校内に凄惨な事件を引き起こしていく―。

マイナス 完全版(1)

山崎紗也夏さんの漫画『マイナス』全5巻。とある描写により、掲載誌が回収されたこともある問題作。

なお本作品には、人によってはややショッキング・不快に感じるであろう内容・表現が含まれています。読書の際はご注意を

『マイナス 完全版』感想・レビュー

『マイナス 完全版』概要

漫画『マイナス』は、1996年から週刊ヤングサンデーに連載された作品。

え、「ヤングサンデー」なんて知らん?当時はヤンジャン・ヤンマガのように、小学館からヤンサンが出版されていたのです。

オリジナルの単行本は全5巻ですが、雑誌掲載時に問題となった2話は未収録。その後2004年に、エンターブレインより完全版全3巻が紙書籍で刊行(現在は絶版)。

さらに2018年、電子書籍レーベル・ナンバーナインから、オリジナル未収録の回を収録した「完全版」が全5巻で刊行されました。Amazon「Kindle Unlimited」の対象にもなっています(2023年9月現在)。

作者はドラマ化されたサスペンス漫画『サイレーン』などを描いた漫画家・山崎紗也夏さん。完全版の作者名は「山崎紗也夏」となっていますが、オリジナル刊行時の名義は「沖さやか」です。

どんな話?主なあらすじ

高校の新任女教師・恩田さゆり。誰からも一目置かれる美貌を持つが、幼き頃に父親から受けたDVにより、「人に嫌われること」を極度に恐れる性格

他人の何気ない態度を見て、「きっ、嫌われたわ…!」と自意識過剰気味(それも過大な)に内省、周囲に受け入れられるであろう態度を取ろうとする。

マイナス 完全版(2)

しかし常人の理解を超えた感覚と発想により、とんでもない行為を繰り返す彼女。

尿意を我慢して生徒に対応し失禁したり。ガリ勉男子の視線を勘違いして性交渉を持ったり。美人であることを妬まれたがために(評価を落とすよう)自分の髪の毛を剃ったり。

突飛な行動を取り、そのたびに窮地に陥る恩田。それを妙な開き直りで乗り越え、自らの肉体をも武器に、自尊心が傷つけられないポジションを校内で築いていく。

だがそれも綻びはじめ、やがて破綻の時が―

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痛々しい「ドキドキ」

複雑な内面を持つ恩田さゆりの教師生活を描く『マイナス』。

当時のヤングサンデーの空気もあり、やや濃い目の性描写もはさみながら(同じく小学館から刊行のスピリッツよりは、エロ成分が強かった)、痛々しいまでの彼女の「努力」がつづられます。

マイナス 完全版(3)

この「他人の目が気になる」という感覚。誰もが多かれ少なかれ、持っているものではないでしょうか。

しかし恩田の場合はそれが過剰にすぎるがゆえに、異常な行動を取り、波紋が広がっていきます。

「嫌われた(かもしれない)」という勝手な思い込みと、不要な取り繕い。美しい外見とアンバランスな精神の未熟さに、次にどんな行動を起こすかわからないという痛々しいドキドキ感が…。

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コメディ描写も

あらすじだけ見ると、非常にサイコな『マイナス』。実際にサイコ要素が強いのですが、しかしそれと相反するようなギャグ風味が、随所に織り込まれているのが独特。

例えば恩田の同僚で、女子高生に興味のある男性教師とのやり取り。彼に嫌われないために恩田の取った行動は、幼女風な服装を着ること。

「今日から彼女(JK)のかわりになります」と真顔で語る恩田。ある意味怖いんだけど、シュールな笑いが潜むシーン。

マイナス 完全版(4)

シリアスに突き進むかと思えば、絶妙にギャグを挟んでくるところに、捉えどころのない面白みがあります。

基本的に物語の根本には「怖さ」があるのですが、コミカルな要素がホッとするような、逆に怖さを増幅させるような、不思議な感覚。

※いま読むとわりとメチャクチャな展開だな、と感じるところもあるのですが、ヤンサン連載時の空気感を考慮すると、当時はそんなに違和感は無かったように思います。

大きな転換を迎える中盤

そんな物語も、中盤で大きな転換を迎えることに。ネタバレになるので詳細は避けますが、ある生徒との「事件」を経て、「自分の精神を脅かす邪魔者は、排除すればいい」という、歪んだ考えにたどり着く恩田。

初期とは別人のように、他人を蹴落とし、裏工作により支配していこうと暴走していくその姿。顔つきも変わり、妖艶な迫力を漂わせていきます

さらに恩田が起こした事件の秘密を知り、知った上でその悪の魅力に理解を示し、協力者となっていく男子生徒・中村が登場。

彼と同盟を組み、恩田の行動はさらにエスカレートすることに。過剰なマイナス思考から始まった暴走の行方。そして迎える結末は―。

マイナス 完全版(5)

発表から20年ちょっと経ったいま読むと、山崎紗也夏さんの初期作品ということもあり、若干の粗さも感じます

またその暴力性・残虐性から、現在メジャー誌で連載したとしたら、大問題となる可能性もある内容。

しかしそれを踏まえても、異様な迫力と魅力を持つ漫画。山崎紗也夏さんの漫画家としての作画スタイルが形作られていく過程も垣間見え、いろいろな意味で面白い作品です。

『マイナス 完全版』まとめ

以上、山崎紗也夏さんの漫画『マイナス 完全版』全5巻の感想・レビューでした。

時を経て復刊された本作は、ある意味、サブカル的なポジションに昇華された「怪作」とも言えます。興味のある方はこの「20世紀末の雰囲気」を感じてみてください。

なお3巻には、実際に雑誌掲載時に問題となった話を収録。森で遭難した恩田と女子生徒二人が、偶然出会った幼児を…というストーリー。ちょっとショッキングな内容なので、閲覧の際はご注意を。

マイナス 完全版(1)

※Kindle Unlimitedの対象については随時変更になる可能性がありますので、サービス利用時に詳細をご確認ください。

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