「マイナス 完全版」全5巻―美貌の女教師が巻き起こす事件描くサイコ・スリラー

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幼少時のトラウマから、「嫌われたくない」という感情が異常に強い新任女教師。その脅迫的な観念が、やがて校内に凄惨な事件を引き起こしていく―。

山崎紗也夏さんの二十数年前の漫画「マイナス」全5巻。とある描写により掲載誌が回収されたこともある問題作。現在は電子書籍レーベル「ナンバーナイン」により完全版が復刻され、電子版を読むことができます。

なお本作品には、人によってはややショッキングに感じるであろう内容・表現が含まれますので、読書の際はご注意を。

「マイナス 完全版」レビュー

概要

「マイナス」は、1996年から週刊ヤングサンデーに連載された作品。え、「ヤングサンデー」なんて知らん?当時はヤンジャン・ヤンマガのように、小学館からヤンサンが出版されていたのです。

オリジナルの単行本は全5巻ですが、雑誌掲載時に問題となった2話があり、それは含まれず。その後、2004年にエンターブレインより完全版全3巻が紙書籍で刊行(現在は絶版)。

さらに2018年、電子書籍レーベル・ナンバーナインから、オリジナル未収録の回を収録した「完全版」が全5巻で刊行されました。

なお完全版の作者名は「山崎紗也夏」となっていますが、オリジナル刊行時の名義は「沖さやか」です。

あらすじ

高校の新任女教師・恩田さゆり。誰からも一目置かれる美貌を持つが、幼き頃に父親から受けたDVにより、「人に嫌われること」を極度に恐れる性格。

他人の何気ない態度を見て、「きっ、嫌われたわ…!」と自意識過剰気味(それも過大な)に内省する恩田は、周囲に受け入れられるであろう態度を取ろうとする。

しかしそれは、常人の理解を超えた感覚と発想から行われるもの。尿意を我慢して生徒の対応を続けて失禁したり、クラスの除け者であるガリ勉男子の視線を勘違いして性交渉を持ったり。美人であることを妬まれたがために髪の毛を剃ったり。

突飛な行動で都度ピンチを迎えながらも、妙な開き直りでそれらを乗り越える恩田。校内で自身の自尊心が傷つけられないポジションを築いていくが、やがて破綻の時が―。

マイナス 完全版(1)山崎紗也夏:ナンバーナイン

痛々しい「ドキドキ」

複雑な内面を持つ恩田さゆりの教師生活を描く「マイナス」。当時のヤングサンデーの空気もあり、やや濃い目の性描写もはさみながら(同じく小学館のスピリッツよりは、ややエロ目だった)、痛々しいまでの彼女の「努力」がつづられます。

この「他人の目が気になる」という感覚。誰もが多かれ少なかれ、持っているものではないでしょうか。しかし恩田の場合はそれが過剰にすぎるがゆえに、突飛な行動を取り、それが波紋を広げていく。

「嫌われた(かもしれない)」という勝手な思い込みと、不要な取り繕い。美しい外見とアンバランスな精神の未熟さが、次にどんな行動を起こすかわからない、痛々しいほどのドキドキ感を読者に与えます。

コメディ描写も

あらすじだけ見ると、非常にサイコな「マイナス」。実際にサイコ要素が強いのですが、しかしそれと相反するようなギャグ風味が、随所に織り込まれているのが独特な特徴。

例えば恩田の同僚で、女子高生に興味のある男性教師とのやり取り。彼に嫌われないために恩田の取った行動は、幼女風な服装を着ること。「今日から彼女(JK)のかわりになります」と真顔で語る恩田。ある意味怖いんだけど、シュールな笑いが潜むシーン。

シリアスに突き進むかと思えば、絶妙にギャグを挟んでくる。捉えどころのないおもしろみが。基本的には「怖さ」があるのですが、コミカルな要素がホッとするような、逆に怖さを増幅させるような。

大きな転換を迎える中盤

そんな物語も、中盤で大きな転換を迎えます。ネタバレになるので詳細は避けますが、ある生徒との「事件」を経て、「自分の精神を脅かす邪魔者は、排除すればいい」という歪んだ考えにたどり着く恩田。

初期とは別人のように、他人を蹴落とし、裏工作により支配していこうと暴走していくその姿。顔つきも変わり、妖艶な迫力を漂わせていきます。

さらに恩田が起こした事件の秘密を知り、知った上でその悪の魅力に理解を示し、協力者となっていく男子生徒・中村が登場。彼と同盟を組み、恩田の行動はさらにエスカレートすることに。

過剰なマイナス思考から始まった暴走の行方。そして迎える結末は―。

まとめ

…といった感じの「マイナス 完全版」全5巻。発表から20年ちょっと経ったいま、通して読むと正直、山崎紗也夏さんの初期作品ということもあり、若干の荒さ(粗さ)も感じます。

またその暴力性・残虐性から、現在メジャー誌で連載したとしたら、大問題となる、やもしれない内容。しかしそれを踏まえても、異様な迫力と魅力を持つ漫画です。この時期に、山崎紗也夏さんの美麗な作画が形作られていく過程も、垣間見えます。

なお3巻には、実際に雑誌掲載時に問題となった話を収録。森で遭難した恩田と女子生徒二人が、偶然出会った幼児を…というストーリー。この話はじめ、ショッキングな内容を含む漫画なので、決して万人にはオススメしません。

しかし時を経て復刊された本作は、ある意味、サブカル的なポジションに昇華された「怪作」とも言えます。興味のある方は本書で、20世紀末の雰囲気を感じてみてください。

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