2021年10月に「レベレーション(啓示)」「ヤマトタケル」「青春の時代」など、漫画家・山岸凉子さんの作品の一部が電子書籍化されました。本記事でご紹介する単行本「押し入れ」もその一つ。
実話系の恐怖話ほか、ホラー系の短編4編を収録した短編集。講談社なかよしコミックスからの刊行です。
「押し入れ」感想・レビュー
概要
山岸凉子さんの短編集「押し入れ」は、下記の4編を収録しています。
- 夜の馬
- メディア
- 押し入れ
- 雨女
このうち表題作「押し入れ」は、山岸凉子さんが人づてに聞いた実話を漫画化した作品で、「夜の馬」と「雨女」は、実際にあった出来事をモチーフにした恐怖短編。いずれも1990年代中盤~後半に発表されています(参照:Wikipedia:山岸凉子ページ)。
なお純和風のタイトルとカバー絵が全く噛み合っていませんが、カバー絵は収録の一編「メディア」からのもの。また単行本冒頭には全4話の美麗なカラー扉絵が収録されています。
「押し入れ」感想
作者・山岸凉子さんが4頭身で登場してエッセイ・コミック風に始まる、表題作「押し入れ」。知り合いの漫画家・MさんのアシスタントであるAさんと、そのお姉さん(OL)の恐怖体験が綴られます。
アパートで二人暮らしを始めた姉妹。二人は職業柄、生活時間にズレがあり、互いの顔を2、3日見ないということもザラ。しかし家に帰ってくるとむき出しのコタツに電気が入っていたり、閉めたはずの押し入れが微妙に開いていたりと、不思議な現象が頻発。そしてある晩、深夜に突然ハネ起きた姉が叫びだす。
「押し入れの中にだれかがいる!ふすまのすき間から目が!」
…ハイ、怖いですねぇ…。文章で書くとベタな怪奇話なのですが、山岸凉子さんはここまでの持っていき方が実にウマイ。雰囲気があります。恐怖体験の真相というのも明確な答えは無いのですが、「人づてに聞いた話」という曖昧さがまた良い風味。
ちなみにこの話の出どころである「漫画家のMさん」は、某大御所少女マンガ家さんなのですが、それに一番ビックリしました(笑)。
ほか、奇妙な臨死体験を描く「夜の馬」、いびつな母子関係を丁寧に綴る「メディア」、実在の事件を被害にあった女性視点で表現した「雨女」も、作者ならではの独特な世界観が不思議な風味。えげつない系のホラー漫画とは一味異なる、繊細にして濃厚な恐怖話の数々が堪能できます。
まとめ
以上、山岸凉子さんのホラー漫画短編集「押し入れ」の感想・レビューでした。絵柄的に女性漫画・少女漫画色の強い作風で、男性が読むと最初は違和感を覚えるかもしれません。が、読み出すとその世界観の虜。独特の恐怖体験を味わえるホラー漫画です。
なお山岸凉子さんの恐怖系の作品としては、他にも「わたしの人形は良い人形」「鬼」「千引きの石(いわ)」「汐の声」など多数の名作が。電子書籍派としては、これらの作品の電子書籍化が待たれるところです。
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