戦争で夫を亡くした妻。
ホテルの料理人として働く彼女のお見合い相手は、19歳の学生だった!
昭和26年の京都を舞台に描かれる、磯谷友紀さんの「ながたんと青と-いちかの料理帖-」を読みました。講談社から1巻が発売中。
老舗の料亭の娘で後家さんである主人公と、ちょっと掴みどころのないクールな青年。二人の恋愛と、料亭の再生が描かれるドラマです。
「ながたんと青と-いちかの料理帖-」1巻レビュー
1951年、戦争が終わって6年経った京都。
主人公は、老舗料亭の娘ながらホテルの厨房でアントルメティエ(前菜係)を務める、桑乃木いち日(くわのき・いちか)・34歳。
戦死した夫とは、2ヶ月しか夫婦生活を送れなかった彼女。再婚はせず、ホテルで働きながら、実家の料亭を手伝う。
ある日、いち日の妹に大阪のホテルの次男坊との縁談話が。
しかし見合い当日にやってきたのは、まだ学生で19歳の三男坊・周(あまね)。
切れ者だが、ズケズケと物を言う周に、反感を抱くいち日。
その後すったもんだあって、なぜかいち日は、15歳年下の周と結婚することに。
京都に足がかりを作りたい山口家と、料亭の再興を目指す桑乃木家。
両者の思いが一致した結婚だが、周は「ぼくがこの店を立て直します」と、謎の宣言をして…?
…というのが、「ながたんと青と-いちかの料理帖-」序盤のあらすじ。
お話の大きな軸としては、
- 料亭の経営を立て直すことができるか
- いち日と周の年の差結婚の行方
というところ。それらが料理を絡めたエピソードとともに、描かれます。
いち日の料亭は、父が亡くなってから経営は芳しくない状態。いち日も西洋料理のコックになったため、跡を継ぐ気は無い。
しかし結婚した周は、料亭を吸収せんとするホテル側の家系にも関わらず、なぜか「料亭を立て直す」と宣言。
料亭の問題点や改善点を洗い出し、再建のために手立てを尽くそうとします。
戦後、接収や食材不足により、ホテルや飲食業は苦しい時代。
アメリカの進駐兵を「アメリカさん」と呼ぶなど、現代とは異なる事情の中、ホテルの三男坊とコックとなった女性が、どのように料亭を再び盛り上げていくのか。
その過程が興味深くも、面白い。
そして見逃せないのは、恋愛ドラマ。「ながたんと青と」は、作者・磯谷友紀さんが「久しぶりに恋愛ものを描こう」と思って始まった作品(あとがきより)。
グルメ漫画っぽく料理レシピも掲載されていますが、肝はやっぱりいち日と周の、年の差結婚。
年齢差は15歳、かたや未亡人の料理人、かたや19歳の学生。
恋愛ではなく、あくまでも両家の政略により結びついた二人。
実は周自身は「好きな人がいる」と、いち日に公言(相手は不明)。いち日もそれをわかって結婚した、という関係。
今で言うと「偽装結婚」みたいなものですが、昔はそんなに珍しい話でも無かったのでしょう。多少の逡巡はありつつも、二人はごくごく自然に祝言を挙げます。
そんな二人が迎える初夜は果たして…。まあそれは本編を読んでのお楽しみとして(笑)、注目は周が触れる「食」。
京都では当たり前の「はも」を、気持ち悪いと嫌がる周(正確には「こんなヘビみたいな気持ちの悪い魚を有難がる京都の人はおかしい」w)。
それにカチンと来たいち日。京都人のごちそうを馬鹿にされたのは我慢ならん!と、周の口にはもを入れるため、「コックの腕を活かしたはも料理」を作ります。
そして完成したいち日ならではの料理。やっぱり男の胃袋を掴むのは料理なんでしょうか(笑)。それを食べた周の反応、ほっこりします。
1巻では、全編を通してほぼ無表情の周。しかしいち日の料理を食べた時には微細な変化が。
周といち日、二人が食を通じて、どんな夫婦になっていくのか。
そんな「ながたんと青と-いちかの料理帖-」。1巻後半では、「アメリカさん」絡みで料亭・桑乃木にある課題が。そして新たな問題も勃発して―?という終盤で、続きが気になるところ。
終戦後の京都を舞台に、当時の世相を織り交ぜながら描かれる料亭の姿。そしてそこに生きる、ちょっと風変わりな夫婦。
京都の美しい風景を織り交ぜながら綴られる物語の根底にあるのは、あたたかな食べ物。
磯谷友紀さんらしい、しっとりと落ち着いた雰囲気が、これからのドラマの盛り上がりを期待させます。次巻にも期待。
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